【代表三塁手の紹介】
<新たに選出された選手>
藤崎由起子(26、トヨタ自動車)
坂元令奈(23、トヨタ自動車 ただし坂元は選考会には遊撃手で参加)
<北京五輪代表>
廣瀬芽(28、太陽誘電)
※ただし廣瀬は代表候補に残ることも辞退
藤崎由起子はもともと捕手としてユニバーシアードにも出場した選手で、実業団に進んだ後はサード、ファーストなど複数ポジションをこなせるユーティリティープレーヤーとして活躍している。
優勝を目指すトヨタ自動車で開幕から不動の4番打者を務めているように、小柄ながらその打撃力は非常に高いものがある。
一言で言えば、藤崎は相手が嫌がる打者、とことんしぶとい打者である。今年の第4節、コントロール抜群のレオパレス山根などから4四球を選んだように、とにかくこの打者は選球眼がよく、簡単にアウトにならない。
常にトヨタと戦っているライバルチームの一ファンとしての感想としてならある程度説得力はあるだろうか。とにかく藤崎は相手から見て「嫌な打者」なのだ。こんなに嫌な打者は他にはいない。仮にその打席を打ち取ったとしてもその過程で散々粘られており、何かこっちが負けたような気分にさせられるくらいしぶとい打者なのである。チャンスに彼女に打席が回ろうものなら、もう2杯余分に生ビールを注文しないととてもシラフでは見ることができないのだ。
そんな彼女がようやく日本の正代表に選ばれた。今度は自分が応援するチームの一員として藤崎の打席を見ることができる。
こんなに心強いことはない。
<2005年のわかふじ国体宮城県代表として、代表主力の東幸電機に補強された藤原麻起子&藤崎由起子の東北福祉大バッテリー。ちなみにこの下に名前が見える「赤澤知子」は元日立工機にいた一部リーグ選手でのちトーテック→東幸電機>
坂元令奈は戸田中央病院から昨年トヨタに移籍してきた元遊撃手。今年からアメリカ代表のトップバッターのN・ワトリーが入社したことから三塁にコンバートされた。
今までのリーグでの成績を見ると、失礼ながらなぜこの程度の実績の選手が選ばれるのかと思われる方もいるかもしれないが、とにかく坂元には数字に表れない実績や勝負強さがある。
しかもその勝負強さの中身がいい。下位チームとの試合では淡白な凡打を繰返してしまうのが欠点だが、逆に強豪チームと対戦し味方が窮地に陥っているときにチームを救う一打を放つ。
特に印象に残っているのが織機戦の3試合だ。2005年の宮崎大会では雨の中、2007年の刈谷大会でも雨の試合で大投手ミッシェル・スミスから決勝点に繋がる貴重なヒットを放っている。また今年の開幕節、これも織機戦でアメリカ代表の次期主力投手になりそうなバークハートから駄目押しになる2点タイムリーを放った。
日本が世界一になる過程で最後に立ちはだかるのはアメリカ代表の左投手であるが、この坂元はその新旧のエースを打ち崩した実績があるのだ。とにかく坂元はここぞという最後の場面で本当に頼りになる。それまでの打席で全然合っていなくても、最後は絶対に結果を出してくれるのだ。
遊撃に加えて三塁も一塁も守れる。おそらく、外野も捕手もやれといわれたらなんでもやれるだろう(たぶん)。
とにかくこの坂元は、何があっても代表に残して我慢して我慢して使い続けるに価する選手だ。
【三塁手の選考について】
五輪代表だった廣瀬が、候補として残ることもなく代表からはいったん完全に退いた形となった。今年の前半、打撃主要部門全てにおいてリーグの歴史に名を残すほどに打ちまくっている廣瀬の代表引退は日本代表にとっては残念としか言いようがない。
廣瀬がいなくなった日本代表サードの後釜といえば、これはもう織機の古田真輝(26)しかいないだろう。日本代表Bの常連で北京五輪前には最終候補の20人にまで残った。残念ながらそこから絞り込んだ15人には編成上残れなかったが、内野手に不測の事態が生じたらすぐに入れ替わる予定だった選手がこの古田である。実力的には金メダリストと同格と言っても過言ではないだろう。ただその古田も選考会には参加しなかった。
代表に名を連ねると想像以上に時間を代表に割かれる。織機は今年、ある意味緊急事態だ。
大黒柱のミッシェルが引退し、とくに選考会が行われた春先には「織機も今年はどうなるかわからない。18年連続の決勝トーナメント進出が危ういのではないか」といわれ続けていた。そんな中で織機の選手は、何よりも「ミッシェルがいなくなっても勝てる」ということを証明するために代表への参加を辞退しても一年間一丸となってチームで過ごす事を優先した。その判断は十分理解できるものであるし、前半戦の結果をみてもその意気込みが十分現れている。
古田にはいずれもっともっと実績を積んで戻ってきてもらおうではないか。
こうして五輪代表の選手が二人抜けたサードであるが、しかしながら、代わりに選ばれた選手を見て、僕は手を叩いて喜んだ。よくこの二人を選んでくれた、と。
打撃の実力からいえば、ソフトウェアの若き大砲・林佑季(21)が選ばれるべきだったかもしれない。あるいは捕手も守れる選手としてルネサスの山本優(21)を強引に三塁手として選ぶ選択肢もあった。さらにはデンソーで実績を積んでおり安定感のある玄人好みの名手衣笠久美(26)もその候補だったか。
しかし、昨年の五輪を見ても、あれだけ力のある打者を揃えても得点としては参加チーム中、日本はかなり下のほうだった。打つ選手だけを揃えても点は取れないというのは野球にしろソフトボールにしろ常識である。打線が機能するためには接着剤として働ける打者が不可欠で、その役目を担える選手がこの坂元であり藤崎である。若き大砲の林は前半戦4失策が示すように守備が課題だ。さらにリーグ屈指の強打者の山本も若さに任せた勢いはあるが、とことん捕手に拘るようなやんちゃっぷりを抑えないといけない。
その点この坂元と藤崎は、実に洗練された大人な選手なのである。加えて両選手は内野ならどこでも守れる。藤崎などは捕手でも一流だ。
日本代表としてこの坂元と藤崎がどう「機能」するか、そこに大いに注目して欲しい。