【2010年日本リーグ前半戦総括~その2・下位6チーム】
【Honda (5勝6敗~5勝は戸田中、伊予銀、大鵬、デンソー、シオノギ)】
<打率10、出塁9、守備12、安打9、打点9、犠打7、四死2、三振11、盗塁5、二塁5、三塁5、本塁5>
前半戦チームは5勝6敗と負け越したが、試合内容を見ると下手したら8勝3敗も夢ではなかった。その差である落とした3試合は、マガジンでの金谷コーチに言わせると「自爆」らしい。“自滅”ではなく“自爆”と表現してることに声を出して笑ってしまったのだが、確かにあの内容は「自爆」としか言いようがない(笑)
打撃成績では四死球が2位という値だけが上位に位置し、打率、打点ともに下位。田中清香と島崎望の中軸に長打が出だしたことから長打が揃って全体の5位に位置するのは大きな成長だろうと思う。個人成績的には唯一打率30傑(24位)に入っている大橋美奈が着実に成長しているのは嬉しいが、平林真由子はどないしてんねん。4割超えんかい。
しかしそれにしても守備率。案の定と言おうか12チームで最下位。しかもその中身をみて驚いた。チームの全13失策のうちなんと8個がショートの加藤恵理によるものなのだ。去年もショート村上由里子がシーズン通して失策王だったのだがその数が8個。わざわざサードと入れ替えた遊撃ポジションで失策数が倍増する勢いで増えてしまおうとは。なんとなく試合を見ていてこのコンバートは上手くいってるのかと思っていたがどうもそうとも言い切れなかったようだ。ただ村上がよく平凡なゴロをポロポロやっていたのとは違い、加藤の場合は無人の一塁へ全力送球するといったようなエキセントリックなエラーが多かったように思う。その点はいわゆる「Honda病」みたいなもので、徐々に自然治癒していくのを待つか、諦めて病とともに生きていくしか仕方がない。ただもともとセンスは抜群の内野手なのでエラーの数と同じくらいの好プレーで取り返してくれるだろうか。無理か。
前半戦の5勝すべてがS・ネルソンの勝ちで、6敗のうちネルソンが2敗で金尾和美が(0勝)4敗。金尾は防御率もさほどよくなく(4.01)、単に数字だけを見るとチームの足を引っ張っているかのような誤解を受けるのだが実際には正反対だ。第1節2日目にソフトウェア戦で1失点完投したネルソンを温存するために1日目の織機戦では金尾が先発し完投。第2節1日目にネルソンが伊予銀戦で1-0完封すると次のルネサス戦では打たれながらも金尾が稲元とともに試合を作った。第3節でもネルソンが2日目の大鵬薬品戦に先発したが金尾は1日目のトヨタ戦で先発。第5節の誘電戦では6回に2点負けていた段階で翌日のシオノギ戦を考慮しネルソンを休ませると、同点に追いついたその後の延長9回まで金尾が投げきったのだ(敗戦投手にはなったが)。
白星の可能性の高い下位チームには元アメリカ代表のネルソンを投げさせ、難しい上位陣との対戦には金尾が先発という完全に損な役回りなのだが、それでも決して試合を壊すことなく投げ続けている。6試合22投球回を投げた金尾の「4敗」は、チームにとって十分に価値のあるものなのだ。その金尾の健気な好投に報いるためにも、後半では絶対に金尾に1勝を付けてあげて欲しいと願って止まない。
【太陽誘電 (5勝6敗~5勝はソフトウェア、佐川急便、Honda、伊予銀、大鵬薬品】
<打率6、出塁2、守備3、安打5、打点3、犠打3、四死1、三振10、盗塁5、二塁11、三塁2、本塁5>
ソフトウェアには普通に勝ち、スメサートの佐川急便にも廣瀬のホームランで貫禄勝ち。伊予銀には19-0といつもの容赦ない打棒爆発を見せていながら、最下位争いのシオノギと戸田中には全く良いところなくあっさりと敗戦しているのが不思議なところ。ただその内容をみると少しは理解できる。シオノギ戦は今年の2試合目。坂井寛子の抜けた後伊藤美幸一人になり、なんとか若手が出てこないと苦しいという思いからあえて期待の高卒新人森真里奈を先発させたが初回に3失点。途中藤田倭に替えたが地元開催のシオノギ打線も好調で且つ相手が安福智ではさすがに7点差を追いつくことができなかった。次の戸田中戦では相手の武井智穂が好投しチャンスを作るがなかなか点を奪えず、逆に戸田中には2死1塁から四球とヒットで満塁とされた後に今泉早智に走者一掃の逆転3塁打を浴び、ワンチャンスをものにされ負けてしまった。どうもこの辺り、「智」のつく名前の選手にやられるジンクスに負けたようだ(紺野智美も活躍したに違いない)
ただ2節では織機相手に延長12回の好試合を演じたように、投げる方の中心になっているベテラン伊藤美幸が今年は本当によく頑張っている。全11試合に投げ5勝5敗。投球回も65と2位上野の53を2試合分近く上回るダントツの値で、投球数も2位の与四球王ネルソンを100球近く上回る961球。昨年までどんな試合でも黙々と投げ続けていた戸田中の堤千佳子の姿がまさに今年の伊藤美幸だ。ただこの伊藤、藤原麻起子や染谷美佳と同世代の今年9年目の元代表候補のベテラン投手であり2007年には規定回を投げ防御率0点台を記録している一流投手である。その3年前の2007年には富士宮大会でルネサス相手に7回ゼロ封し、その裏に谷川まきが上野からサヨナラツーランという最高の試合もあった。ベテランにして熱投を続ける伊藤のためにもやっぱり打線がもっともっと応えてやらなければダメだ。坂井がいなくなったとはいえ、この伊藤がいればまだまだ上に行けるチャンスはある。
攻撃面では相変わらず廣瀬が歩かされムラの多い谷川が抑えられるというパターンが多く、レオパレスからきた河野美里もまだ打線に馴染んでいないが、高卒新人の原田のどかと2年目の岡本由香がかなり使えるのが大きい。この二人はもっともっと良くなる。
チーム全体としての特徴はやっぱり四死球が1位であること。2位に10個以上の差をつけてトップなのだが、これはもちろん四球王の廣瀬芽がいるからだ。ただその廣瀬の11四球と並んでリーグトップなのがなんと若手の佐藤みなみ。佐藤は打率2割ちょっとながら出塁率では廣瀬とほぼ変わらない4割6分2厘と恐らくリーグベスト10に入っているはず。この選手も今後かなり化けるのかもしれない。
【伊予銀行 (3勝8敗~3勝はシオノギ、戸田中、大鵬薬品)】
<打率5、出塁5、守備3、安打6、打点7、犠打10、四死5、三振11、盗塁8、二塁12、三塁5、本塁11>
昨年最下位で今年も前半戦3勝と最下位と1勝差だが、その勝利の中身がいい。下位争いを演じているシオノギ、戸田中、大鵬薬品に全て勝っているので、後半戦かなり有利に戦えるのではないか。大國監督は「5勝はできた」と悔しそうにマガジン誌上で話していた。確かにできるだけ勝ちたかったのは当然だろうが、この3チームに勝てたことは最終的には3勝以上の価値を生むことになるだろう。
前半戦頑張ったのがショートの中田麻樹。昨年は1本塁を放ちながらも打率は0.186だったが今年は0.379で10位以内に入っている。守りでも昨年はシーズン通して7失策であったが今年は前半戦を1失策で乗り切った。もともと打力のある矢野輝美も昨年はチーム1ながら最終打率は0.290だったが今年は0.361と3割を大きく超えている。レフトの重松文も昨年1割台の打率が0.340と好調で、同じ外野手である狩野香寿美や永吉理恵、河野美里など日本代表選手を上回っている。しかも所属チームが伊予銀行であることから常に他チームの好投手と対戦してのこの数字で、第1節では上野由岐子から起死回生の同点タイムリーまで放っているのだ。
打率20位以内に入っているこの好調の3人に加え、セカンドの中森菜摘も3割近く打っており、控えだが仙波優菜や池山あゆみも好調だ。昨年より明らかに良くなった打撃がチームを引っ張り、2勝に終わった昨年から前半戦ですでに3勝をあげた躍進の原動力になっているのは間違いない。
レオパレスの廃部で急遽決まった1部残留だが、2部行き覚悟で入ったであろう今年の二人の高卒新人が大きな働きをしている。開幕から2番センターに定着した松岡玲佳は打率は0.188ながらも8四死球を選んで出塁率は0.341と、1年目のつなぎ役としては十分な成績で、延長に持ち込んだルネサス戦でも、上野からセンター前に抜けそうな内野安打を放ち一打サヨナラのチャンスを作っている。センターの守備でも失策0であり、守りでも貢献している。
投手陣に若手が多いがチームのエースは8年目の坂田那巳子で、前半戦3勝のうち2勝をあげている。だがそのエース坂田以上にチームの勝敗のカギを握っていたのが1年目の西村瑞紀で、トータルで見ると坂田が8試合32回2/3で2勝1敗なのに対し、西村は24回1/3で1勝5敗と半数以上の6試合で責任投手となっている。前半戦最後のデンソー戦はさすがにバテたか滅多打ちを食らい、また下位チーム相手には鬼神のように打ちまくる誘電戦で撃沈されたことで防御率は7.19とかなり悪くなったが、ただその7点台の防御率とは思えないほどその中身は新人離れした立派なものである。開幕の大鵬戦で初登板を果たすと勝ち投手にもなり、敗れはしたが延長にまで持ち込んだルネサス戦では8回完投。ソフトウェア戦では6回に捕まったが5回までは先頭打者林の本塁打1失点に抑える好投を演じている。ただこの大貢献の新人西村に対してもソフトボールマガジン誌上で、「自信と過信をはき違えている」、「(デンソー戦後に)今年一番アッタマきた」と全く容赦のない言葉を浴びせかけるのがさすが鬼の大國監督と言ったところ(笑)。ただそれは裏を返せば、それだけ期待が大きいということでもある。シオノギ、戸田中と当面のライバルに満を持して坂田を先発させてともに好投し勝利できたのも、他の試合で好投した西村の存在抜きには考えられない。
ただ西村だけではやはり後半戦は心許ない。投球回数15回を投げた末次夏弥や、トヨタ戦の先発と、例の悪鬼と化した誘電相手に投げ半殺しにされ1回11失点だった不運な山田莉恵も含め、3人で坂田をサポートする形で後半に挑めれば、目標の6勝をあげて残留を確実にするのもそう難しいことではない気がする。
【大鵬薬品 (2勝9敗~2勝は織機、戸田中)】
<打率11、出塁12、守備7、安打12、打点8、犠打12、四死12、三振4、盗塁10、二塁8、三塁12、本塁3>
大鵬薬品については前の記事でかなり詳しく紹介したので今回は簡単にしたい。
打撃の記録を見て少々驚いたのがこの大鵬薬品で安打数が最下位に打率が11位と、打撃が良いイメージとは正反対の成績だったこと。ただ印象に残っている「強打」というイメージを裏切らなかったのがホームラン数で、ソフトウェアと並んで堂々の3位なのである。内訳は佐々木瞳2本、佐藤光紗2本、鷲野留実、上釜恵、中山亜希子が各1本と、ソフトウェアと同じ5人が本塁打を放っている。この5人というのも延べ人数としてはトヨタの6人に次いでルネサス、ソフトウェアと並んで2番目の多さなのだ。しかも四死球が一番少なく且つ犠打数も一番少ないという、まさにチーム全体が人間扇風機の助っ人トマソン並(またはランス、今の中日でいえばブランコでMLBで言えばオルティス)に特徴のある打撃記録なのが非常に面白い。ただ一つ強調しておかなくてはいけないのが三振数は4番目に少なく決して扇風機ではないということだろう。マガジンの監督インタビューでも「空中戦では負けない」と言っていたがそれは強がりでもなんでもなく自慢できるくらい大きな武器なのだ。
【シオノギ製薬 (2勝9敗~2勝は誘電、大鵬薬品)】
<打率9、出塁11、守備11、安打7、打点12、犠打2、四死11、三振8、盗塁12、二塁8、三塁9、本塁9>
宮、田城などリーグを代表する強打者はいるがやはり今年も点を取るのに苦労している。ただこのチームは投手を含めた守りをしっかり固めることが基本で、攻撃では犠打を多用してなんとか点を取り、少ない点差で勝利を目指すのは毎年の特徴である。今年の前半戦も犠打数は2位とその信念を貫いているのは頼もしい。ただそれがほとんど得点に結びついておらず、打点が最下位というのがこの位置に低迷している苦しい理由だろう。結局は犠打で送っても肝心のそれを返す打者が不調で点を取れないのであるが、藤田恵や紺野智美、岩切奈那が小技でチャンスを作るのはいいとして、本来はそれを返すべきクリーンアップに据えている熊谷陽香が犠打6とチーム最多であることがその苦心を物語っている。やはり高木由美子と安田真富果という貴重な強打者が抜けた影響がかなり大きい。
そしてその大事なチームの柱である守りの方も、監督がインタビューで応えていたように確かに大事なところでのエラーが非常に多かったように思う。実際に失策数も最多のHondaに1個差の12とブービーであり、監督がいうように数に表れないようなミスも多かった。
投手陣では日本代表の安福智を中心に回していくという姿勢のようであるが、実際には今年はそれほどよくなく、1勝6敗で防御率3.63では実力を考えるとかなり物足りない。確かに地元の尼崎大会では2試合好投したが、大事な伊予銀戦では序盤でノックアウトされ、ソフトウェア戦、戸田中戦、大鵬戦でも序盤に失点している。ただ安福の不調で仕方なく頼らざるを得なくなったような形で登板させられているもう一人のエース、松村歩が今年は好調で、ルネサス、トヨタの強豪相手に好投し、敗れはしたがHonda戦でも7回1失点に抑え、大鵬戦では勝ち投手にもなった。それより松村の打撃である。残念ながら前半戦での打席は0に終わったが、上野を打席に立たせて成功しているルネサスの例もあるように、なんとか後半は打者・松村を実現させてほしいものだ。そんなに松村に打たせるのが嫌なのだろうか(笑)
【戸田中央総合病院 (2勝9敗~2勝は誘電、シオノギ)】
<打率12、出塁10、守備10、安打11、打点11、犠打11、四死7、三振3、盗塁10、二塁5、三塁5、本塁11>
前半戦好投し、第2節の誘電戦、シオノギ戦で連続完投勝ちした武井智穂が最後の大鵬戦で投げなかったのはどうやら腰の故障が原因だったようだ。大事な試合で武井を使わず長南友子を長く引っ張ったのを「温情采配が裏目に出た」と切り捨ててしまったが、やはり裏にはいろいろ理由があるんだなと改めて実感した。その長南であるが、大学日本一にしてワールドゲームズ優勝投手という鳴り物入りで入団はしたが、前半戦で20回を投げ防御率10.50という信じられないような成績。多くのチームで高卒新人投手が大活躍している現状からも、本人はかなりプライドを傷つけられていることだろう。ただ同じ東北福祉大出身でタイプ的にも非常に似ており、長南本人も目標(ライバル?)にしているソフトウェアの藤原麻起子も、高卒時で投球回もたった2/3ではあったが東邦銀行の時の防御率が10.50と全く同じ数字であり、これにはやはり何か特別ものを感じざるを得ない。長南自身、大学時代にあれほどの経験をしてきた投手なので、本人はどこがどう悪くてなぜ打たれているのかくらいは理解しているはずだし、そのためにはどうすべきなのかも理解はしているだろう。武井の怪我も考えると後半戦は主軸にならないといけないわけで、最下位争い必至のチームにおいてどう復活してくるのかを楽しみに待ちたいと思う。
攻撃においては名のある打者が多いにもかかわらず、チーム打率が最下位でその他の項目も軒並み10位以下。エラーも多く、攻守においてこの数字ではやはり最下位の順位も仕方がないか。そんな打撃陣において格が違うのが今泉早智。今年も打撃好調で打率は4割ちょうどの7位と、今泉式打撃フォームが正しいことを自らで証明している。昨年からブレイクしてきた東美紀やもともと打力のある内田千恵美も0.250強とそこそこの数字ではあるが、やはりこの辺りの打者がプラス1割くらいの打撃成績を残してくれないと正直苦しい。太田あゆみと吉田真由美の強打の右打者も打率が1割台ではどうしようもない。
そんな総じて不調の打撃陣において今泉とならんで気を吐いているのがサードを守る川原愛美。36打席に立ち9安打2二塁打1本塁打で打率が0.290。6打点はチーム最多で全体の17位に相当する。絶対に負けられないのに負けてしまった大鵬戦でも本塁打と満塁走者一掃の二塁打で4打点と大活躍。しかも二塁打はレフトフェンスの真上に当たって跳ね返るあと数センチ(ミリ)で2打席連続ホームランになるような打球であった。ただ、同じフェンスの真上に当たりながらそれを誘電戦で決勝ホームランにしたのが織機の松岡恵美。この違いが選手としての格の違いということになるのだろうか(笑)。
しかしこの川原、1年目に出場0試合だったのが印象に強くて昨年の成績をあまり認識してなかったのだが、昨年もシーズン通して31打席に立ち6安打1二塁打、打率0.214とそこそこの数字を残していた。それを考えると昨年の時点ですでに今年ブレイクする萌芽が見えていたのかも知れない。それと個人的に興味があるのが前半戦を終えてこういう良い数字を残した若手打者が3ヶ月という長い夏期中断を経て後半戦どうなるのかということ。もちろん他の選手全体にも言えることだが、この川原の後半戦の記録を追いかけることでその辺も確かめてみたいと思う。
<1部前半戦チーム別打撃成績(主要項目について)>
※ベスト3が赤、橙、黄、各色、ワースト3が水色系の濃い順
※数字のあとのカッコ内は12チーム中の順位
※失策の項目については「失策数(守備率)」
以上、終わりです(しかし長ぇなこりゃ)。
今週末はいよいよ実業団選手権。本大会のない1ヶ月半をなんとかつないで乗り切れた。