【真夏の昼の夢~終章】
北京五輪決勝からちょうど4年、再び日本が五輪で優勝し、金メダルを獲得した。
ピッチャーズサークルに駆け寄るナイン、監督、コーチ。
その輪の中でUN20番をつけた投手が日焼け防止の大きなマスクを外す。
その輪の真ん中、捕手の橋元に肩車され「日本が1番だ!」と腕を突き上げるのは、一度引退しながらも青森に戻って極秘トレーニングを続け、120km/hに迫るスピードを維持し、さらに一年遅れで引退した藤原麻起子との猛特訓でコントロールも手に入れた、元日立ソフトウェアの瀬川絵美だった…。
上野由岐子に次ぐ日本の将来のエースと期待されながらも夢半ばで引退してしまっていた瀬川絵美が、ここに完全復活したのだった。
そしてここで感動的な場面が。
今敗れたばかりのアメリカの選手達が、そして3位のオーストラリアの選手達が、いや、スタンドで見ていたカナダの選手もイギリスの選手も、全ての国の選手たちがグランドになだれ込み、そしてみんなが肩を組んで「Let’s Softball!!」の大合唱をし、五輪でソフトボールをやれる喜びを爆発させたのだ。
前回の北京五輪終了後の「Back Softball!!」から4年、再びソフトボールの感動の嵐が世界中を駆け巡ったのだった。
そして前回の北京五輪の試合直後に、インターネット版の速報で「みんなが『レッツ・ソフトボール!』と大合唱した!!」という恥ずかしい誤報を流したサンスポが、‘猫インフルエンザ’に惑わされたのかまた今回も「みんなが『キャッツ・ソフトボール!』と大合唱した!!」という4年経ってもちっとも成長していないような意味のわからない記事を配信した。
この時、地球の裏側の日本では各地で国体ブロック予選であるミニ国体が行われていた。過去の国際大会や五輪時では代表が試合していようがお構いなしに各地で予選の試合が普通に進行していたが、1部2部を含めた多くのチームの選手が出場した今回の五輪では、自然と試合が中断し、この優勝の瞬間は日本の全てのソフトボール関係者が固唾を呑んで見守っていたのだった。
結局、1回裏から試合終了までブルペンで投げ続けた堤千佳子の投球数は最終的に546球にも及んだ。これがのちの時代まで伝説となる「堤の546球」である。
そしてこの「堤の546球」は、その年の流行語大賞の優秀賞にも輝いた。
流行語大賞はもちろん、達川光男さんの「あのねぇ~あのねぇ~」である。
(場面はかわって、都内のとある家庭)
ゆき「ママー!日本勝ったよ!優勝だよ!」
ママ「ほんと良かったわ~。ママも感動しちゃった」
ゆき「ママ~、私も中華の鉄人目指すの止めて、ソフトボール選手になりたい!」
ママ「そう!?じゃあ明日さっそくグローブ買いに行こっか?二つ買って、ママも始めちゃおうかな」
…………
ゆき「ママ、でもちょっと変じゃない?」
ママ「なあに?」
ゆき「オリンピックから外されたけど、‘猫インフルエンザ’が流行ったおかげで、今回ソフトボールが復活したんだよね?」
ママ「そうよ」
ゆき「でもね、‘鳥インフルエンザ’って言ったら鳥がかかるよね?猫インフルエンザだったら、猫に広がるんじゃない?」
ママ「それもそうね~。よく考えたら変ね」
ゆき「なんで人間に猫インフルエンザが広がったの??」
パパ「なんだお前たち、知らなかったのか?」
ゆき&ママ「あれ??パパ、いたの??」
パパ「ガーン!…(3時間前から目の前にいたのに…泣)」
ゆき&ママ「でもなんで?」
パパ「(気を取り直して)あのな、猫インフルエンザだったらそりゃもちろん猫に広がるよ。でも今回のはな、正確には『猫インフルエンザ』じゃないんだよ」
ゆき&ママ「…ん?」
パパ「正確にはな、自分がカンボジア代表でオリンピックに出られなかったのを逆恨みした猫ひろしが単身ロンドンに乗り込んでウィルスをばら撒いた『猫ひろしインフルエンザ』なんだよ(どや顔)」
パパ「だから猫じゃなくて人間に蔓延したんだ。『ニャー』ってのも猫ひろしのギャグだし。それにアメリカはピッチャーだけ今日は調子悪かっただろ?何せあいつは『キャット』だからな!(ますます、どや顔)」
…………
ゆき&ママ「ふーん」
パパ「ふーん、て!(泣)」
ゆき&ママ「え~でも、それホント?」
パパ「ああ、ほんとだよ」
ゆき&ママ「ほんと?こんなんで終わっていいの?」
パパ「うーん…しょうがないじゃないか。どうもコレが限界らしいから…」
ゆき&ママ「…」
パパ「…」
ゆき&ママ&パパ(声を大にして)
「オチ、しょーもな!!」
【終わり】
(今年の夏の悪ふざけ、終わり。長かった。1週間留守にしますが、次からはマジメにやります…)