【今年のMVPは大久保美紗で間違いなし!】
ルネサスの2冠達成で幕を閉じた今年の日本リーグ。MVPは豪腕上野由岐子でもなく、決勝打を放った乾絵美でもなく、起死回生の同点打を放った三科真澄でもない。もちろん、試合観戦中に缶チューハイを差し入れてくれた元織機の知り合いでもない(生中5杯なら逆転MVPだったが。惜しかった)。
全日本総合での土壇場でツーストライクと追い込まれながらの同点スクイズに執念の走塁、リーグ決勝戦におけるアボットを苦しめた粘りの打撃、と、大久保美紗の活躍こそが今年の実業団女子ソフトボールのMVPに相応しいのではないか。彼女がいなければトヨタが2冠を達成していても何らおかしくはなかった。いや絶対にトヨタが2冠を達成していたはずだ。それほど大久保の活躍は大きかった。確かに世界一の投手アボットに対して、最後は三科が右ストレートを浴びせ、乾の右アッパーでマットに沈めた形になったが、大久保のボディーブローがどんなに効いていたか。それは7回、大久保に粘りに粘られた末に四球で塁に出してしまったアボットの表情が全てを物語っていた。
千葉の強豪木更津総合高校出身。高校時代までは投手として活躍し、1学年下でルネサスでもチームメートの日本代表捕手、峰幸代とバッテリーを組んでいた。ルネサスに入ってから野手に専念したが、171cmの大きな体を大きく見せず、バットを短く持ってどこまでもしつこく打球に食らいついていくバッティングが特徴だ。決勝戦でアボットと対した4打席目などは、短く持つだけでなくグリップの両手を少し離し、明らかにファールで粘ることに徹していたようにさえ見えた。派手な活躍はないながらもチームとして勝つための役割が担える本当に素晴らしい選手。ただそれだけに一つだけ残念なのが上野と同じルネサスに所属していること。こういう打者こそが上野に対してどういうバッティングをするのか非常に興味深いし、その場面が増えればリーグの面白さも増し更にドラマティックな場面も展開されると思うのだが。なんとか移籍してくれんかね(笑)。
まあそんなことはさておき、とにかく決勝戦でアボットを苦しめ抜いた大久保の4度の打席、少し詳しく振り返ってみたい。
<身長171cmと大柄ながら、バットを短く持ち小さく構える大久保>
【決勝戦での大久保の4打席】
(S=ストライク、B=ボール、F=ファール、bF=バントファール、(O)=アウトコース、(I)=インコース、(M)=真ん中、数字は飛んだ方向)
※コースはテレビ画面を見ながらなので少々微妙なのもあります。
<第1打席>S(O),3bF(O) ,3F(I) ,B(O) ,3F(O) ,2F(I) ,3F(O)→空振り三振(O)
無死一塁で走者を進められなかったが5本のファールでアボットを苦しめる。2球目のバントファールは前進してきた伊藤幸子の頭の上を越すプッシュバントでファールにはなったが狙い通り。最後は外角をカットに行きつつバットを止めるも回ってしまって空振り。
<第2打席>B(I) ,S(I) ,3F(O) ,B(O)→三ゴロ(I)
先頭で打席に入り2-2からサードゴロ。
<第3打席>2bF(O) ,B(I)→一犠打(O)
無死一塁で打席に入り、初球のバントはバックネットへのファールとなるが、1-1からしっかりとファーストへ犠打を決める。
<第4打席>S(O) ,3F(I),B(I) ,3F(O) ,B(M) ,3F(O) ,B(O) ,2F(I) ,3F(O) ,3F(I) ,3F(M)→四球(O)
1死無走者で打席に入り、2球でツーストライクと追い込まれるもここからファール6本で粘る。その間にインコース、真ん中高め、アウトコースとボールもしっかり見極め、最後は3-2のカウントから外角いっぱいを見逃して四球。広めのストライクを取る球審であれば手を上げたかも知れないが、しかしトヨタ藤崎の見逃し三振の1球以外は判定にブレのなかった今日の球審はあそこは一貫してボール。見極めた大久保が見事というしかなかった。この四球がきっかけでルネサス奇跡の逆転劇が始まる。
【4打席の集計】
その粘りに粘った4打席を集計してみた。
見逃しS: 3(アウトコース2、インコース1)
空振りS: 1(アウトコース)
ファール: 14(アウトコース8、真ん中からインコース6)
ボール: 8(アウトコース4、インコース4)
三ゴロ: 1(インコース)
一犠打: 1(アウトコース)
28球で空振りが1つ。ファールが実に半数の14本。アウトコースを芸術的にカットする技を持ち合わせてはいるが、真ん中からインコースも6本ファールに。トヨタバッテリーも決してアウトコース一辺倒の単純な攻めではなかったが、大久保の執念と技術がそれを上回った。
ボールになった8球もインコース、アウトコースそれぞれ半数。見逃しでストライクが取れたのは第1、4打席の初球と、第2打席の2球目のみ。トヨタバッテリーからすれば、もうどこに投げてもファールにされ、どこに投げても見極められるといった感じではなかったか。
<インコースの球も見事にカットする。素晴らしい>
【大久保は素晴らしかった。しかしアボットも…】
さてファールで粘りに粘った大久保の素晴らしさには何らかわりはないのだが、しかし決勝戦のアボットから本来の剛球が影を潜めていたことも確か。序盤から連打を浴びたりリーグ1の貧打城戸からも空振りを取れないなど疲れは明らかだった。それもひとえにアボットに二日で3連投を課したトヨタベンチの学習能力のなさが原因なのだが、それは試合の紹介の本編において酷評したい。
とにかくこの稿では大久保美紗を大いに称えたい。本当に素晴らしい打者だ。移籍せんかな(もうええ、笑)。