【2部の底力~大鵬薬品の巻き返しなるか】

【2部の底力~大鵬薬品の巻き返しなるか】

 

 今回は、大鵬薬品について、書きたいと思う。

 

<2010年、大鵬薬品の前半戦>
 2010年、4年ぶりに1部復帰を果たした大鵬薬品。開幕前に多田監督が目標にあげた「7勝して残留する」という目標が、4節まで9連敗した時点では余りにも高すぎる目標で絵に描いた餅に終わる可能性が高いことを、誰しも疑わなかったのではないか。しかし毎年2部で強豪の靜甲を実力でねじ伏せてきた強打の大鵬薬品がこんな状態で終わるはずがないと、僕は信じ続けてきた。いや「信じる」というとウソになるか。「これは大鵬が最下位で決まりかな」と思いつつも、きっと盛り返すと「願い続けてきた」という方がより正しい。とにかく、こんなままで終わってしまったら、春先からいちご大福を差し入れしてきた意味がないではないか。

 でもその危惧というか不安は、大いに杞憂に終わりそうだ。前半最終の第5節、織機に僅差で勝利し記念すべき2010年初勝利を挙げた翌日、戸田中との打撃戦を制し相手を力でねじ伏せた戦い方は、あの2部で見てきた「強い大鵬薬品」の姿そのままであった。この2連勝で一気に残留も見えてきた。
 思えば開幕からの9連敗の中でも、開幕の伊予銀戦ではセンター上釜の後逸、第4節のシオノギ戦では満塁から走者一掃するショート森田の悪送球(伝聞ではあるが)と、信じられないようなタイムリーエラーで大逆転負けをしてきたわけで、たらればを許してもらえるとすれば、いつもの戦い方さえすれば大鵬薬品が「前半戦4勝」してシーズン7勝を視野に入れていても何らおかしくない展開だったのだ。

 

<過去10年の大鵬薬品>
 さてその大鵬薬品。今年4年ぶりの1部復帰ではあるが、過去10年間の順位をもう一度見てみよう。

2001年:1部12位(大徳の廃部により救われて1部残留)
2002年:1部9位
2003年:1部12位(翌年2部降格)
2004年:2部1位(翌年1部昇格へ)
2005年:1部10位
2006年:1部11位(2部2位の靜甲に敗れ翌年2部降格)
2007年:2部2位(入れ替え戦でシオノギに敗れ1部昇格ならず。森田入団)
2008年:2部3位(佐々木、上釜入団)
2009年:2部1位(翌年1部昇格へ。中山入団)

 1部、2部を行き来する苦しい年が続きながらも、2部に落ちても諦めずに必死に1部に挑み食らいつく健気な姿がよくわかる。こういうチームがあるからこそ、2部リーグで毎年面白い試合が繰り広げられるのだ。

 

<大鵬が見せる2部リーグの底力>
 さてその大鵬薬品に対して「2部の底力」と表現したのには理由がある。
 大鵬が最後に1部で試合をしたのが2006年。エースにはスルガ銀行、東邦銀行でもエースとして活躍した小橋葵がいて、打線の主軸にはのちに戸田中でも活躍する橋本夕紀子がいた。もちろん主力には馬渡知恵や田中祐視、辻明香もおり、さらには翌年から2部で打ちまくった松山夏美もいた。ただ現在の主力である森田まゆや佐々木瞳はまだ入団しておらず、そしてこの年を最後に1部から遠ざかったことから現在の大鵬には誰一人1部時代の大鵬を知る選手がいない。1部時代の大鵬どころか、1部そのものの経験者は織機から移籍してきた酒井かおり1人だけである。今年の選手はほとんどが「初めての1部」であり、まさに「2部リーグの選手が挑む1部リーグ」なのである。

 しかも、それだけではない。
 昨年最多勝を挙げ1部昇格に大貢献したエースの鈴木碧(みどり)は、もともと淑徳高から2部の中堅チームである三島中央病院に進んだ投手である。2部選手になってからもあまり目立った活躍はなかったが、2008年に最後の三島中央での実業団大会で優勝、2009年は三島の廃部に伴い監督とともに移籍した大鵬での最多勝獲得と、一気に花が開いた。同じく廃部した三島から移籍してきた選手には現在の大鵬で1番を打つ強打の佐藤光紗(みさ)がおり、さらに第5節の織機戦で殊勲の決勝打を放った4番の山崎由利がいる。その山崎などは、最初に入った実業団チームが2部どころか当時3部制で3部所属であったスルガ銀行である(現在Hondaの中村瞳と同期)。また、今年のチームで唯一の1部経験者であると言った酒井かおりにしても、元はと言えば実業団のスタートは高校卒業後に入った2部のトーテックであり、そこから東女体大を経て織機、大鵬と渡り歩いてきた選手である。

 つまり今の大鵬で戦う選手たちは、単に「1部未経験」の大鵬薬品の選手たちがというだけではなく、いろいろな2部のチームから様々な経験をして集まってきた選手たちなのだ。今年の大鵬はまさにそれら「多くの2部の選手たちによる1部への挑戦」なのである。

 実業団スポーツであるソフトボールの場合、なかなかチーム間での移籍が行われない。学生を終え実業団に進む年にたまたま1部のチームから声がかからなければ、2部のチームに進むことになる。しかしその後実力が開花し、1部でも十分活躍できるような選手が多いのだ。ただその場合でも比較的しっかりとした親会社が多いことから、わざわざ退職することはせずそのまま2部で活躍する選手が多い。もちろん選手全体的なレベルははるかに劣るが、中には1部選手に勝るとも劣らない一流選手が埋もれているのだ。それを証明するのも、「2部代表」としての今年の大鵬の役割でもあるのだ。

 

<2010年の前半戦を振り返る~打者編>
 さてそれでは今年前半戦の大鵬薬品の選手の成績を見ながら、選手個人についてコメントしてみたい。

中山亜希子
 打率0.441 (34打数15安打2打点1二塁打1本塁打3三振)
佐々木 瞳
 打率0.344 (32打数11安打8打点3二塁打2本塁打7三振)
森田 まゆ
 打率0.250 (16打数4安打1打点1二塁打0本塁打2三振)
上釜  恵
 打率0.241 (29打数7安打1打点1二塁打1本塁打3三振)
鷲野 留実
 打率0.235 (17打数4安打3打点0二塁打1本塁打6三振)
(チーム全体)
 打率0.217 (272打数59安打27打点8二塁打7本塁打42三振)

 

 前半を終え4割4分1厘と大活躍だったのが上位打線を打った中山だ。今年のトヨタカップで、アボット相手にチームは三振の山を築き1本のヒットも打てなかったが、この中山が7回にレフトへクリーンヒットを放った。打撃力の高さを感じたその打席であったが、前半戦での成績はあのアボットからの一打が本物であったことを証明してくれた。多くの実業団選手を送り出している四国の名門、愛媛短期大出身の好選手だ。
 印象的にその中山以上の活躍をしているのがキャプテンの佐々木瞳である。富士大学出身選手としては一番の出世頭だろう。前半最終の戸田中戦での4打数4安打をはじめ、開幕の伊予銀戦では坂田から、2節のデンソー戦では染谷から一発を放ち、前半戦の全11安打中、2塁打3本、本塁打2本と、ヒットの約半数が長打という申し分のない活躍をしている。とにかくちゃんちゃんことかが似合いそうな赤いほっぺの可愛い選手である。
 今の大鵬にもっとも長く所属する森田は今年は下位打線を任され先発を外れることもあり、打席数が少なく本来持っている実力的には不満足な結果だが、それでも織機戦勝利のお膳立てとなる二塁打を放っている。後半戦はもっとやってくれるだろう。
 スラッパー・上釜は、前半戦7安打で打率2割4分1厘と、1部ではまずまずの結果を残した上、デンソー戦では風に助けられたとはいえ染谷からホームランも放っている。なにより凡退した打席でも確実にショートにゴロを転がすバッティングは、スラッパー打者のお手本とでもいうべき素晴らしいものだ。
 個人的にあとから記録を見て驚いたのが新人の鷲野。春先に見た時はあのあどけない顔の影響かもしれないがとてもバットに当たりそうもない雰囲気だったのだが、シオノギ戦ではホームランも放ち、前半戦で4安打と高卒新人としては十分な成績を残している。

 以上がチーム打率より高い選手の紹介であるが、それ以下の選手に対しては少し辛口になる。

 

佐藤 光紗
 打率0.194 (31打数6安打6打点1二塁打2本塁打2三振)
酒井かおり
 打率0.161 (31打数5安打1打点0二塁打0本塁打5三振)
山﨑 由利
 打率0.156 (32打数5安打4打点0二塁打0本塁打4三振)
稲垣ゆみこ
 打率0.067 (15打数1安打1打点0二塁打0本塁打0三振)
増井 知美
 打率0.042 (24打数1安打0打点1二塁打0本塁打3三振)
伊藤瑠美子
 打率0.000 (10打数0安打0打点0二塁打0本塁打7三振)
北原 史織
 打率0.000 (1打数0安打0打点0二塁打0本塁打0三振)
浜田 京香
 打率-.— (0打数0安打0打点0二塁打0本塁打0三振)

 

 戸田中戦での逆転スリーランが印象に残っている佐藤。打った瞬間にわかるような滞空時間の長い元織機のリベラ並の豪快なホームランで、前半戦はあの一発だけでも十分な働きと言えるのだが、チーム打率より低い打率は1番も務める打者でもあり彼女の実力から考えても物足りない。
 4番の山崎にも同じことが言える。織機戦での決勝タイムリーは非常に大きい価値があるが、やはりもう少し確実性が欲しい。その力は十分にあるのだから。
 前半戦、最も不満な成績なのが酒井。もちろん守りでの存在感は大きいが、期待が重圧となっているのか、長打なしで打率1割台と打撃成績はさっぱりだ。2007年後半から2009年前半にかけて調子の良さが続いてきていた打撃が2009年後半からやや落ちてきた。早くあの地味に活躍する渋いバッティングを取り戻してほしい。
 稲垣と増井はともに前半戦1安打だが、1年目で遊撃の控えも務める稲垣に、捕手として苦労の絶えない増井でもあり、彼女たちの前半戦の打撃成績には目をつぶってあげたい部分はある。ただ増井の唯一のヒットをたまたま見たのだが、トヨタの日本代表投手山根から放った目の覚めるような完璧な右中間へのライナーの二塁打であった。あれを見るとむしろその1本で終わっているのが不思議なくらいだ。何より髪の毛が多くてふさふさのお嬢様みたいでとてもスポーツ選手とは思えないのがいい(笑)
 前半戦、ヒットを放てなかったのが北原と伊藤の二人。野手の控えである北原は1打席にたっただけであるが、大鵬は選手数が少ないためにいざという時のためにどうしてもベンチに一人はバックアップが必要で、それゆえ試合に出られないのは残念だけど仕方がない。伊藤はもともとDPのレギュラーとして活躍が期待されていた甲賀医専出身の大砲である。1年目の鷲野とタイプが(見た目も)非常に似ているが、それゆえに1年目の鷲野に負けているのが歯がゆい。甲賀時代はもっと打っていた印象があるだけに後半の巻き返しに期待したい。
唯一打席に立てなかった濱田だが、代走で7試合に出場。試合に出ながら多くの経験を積む1年になるだろう。

 

<2010年の前半戦を振り返る~投手編>

井俣 茉莉
 防御率1.31 (投球回数5.33:22打者,5被安打,1自責点,2四死球,2奪三振,0被本塁打)
梅津佳奈子
 防御率3.44 (投球回数18.33:76打者,17被安打,9自責点,5四死球,2奪三振,2被本塁打)
鈴木  碧
 防御率4.98 (投球回数39.33: 187打者,47被安打,28自責点,29四死球,11奪三振,5被本塁打)
小澤芙美子
 防御率10.11 (投球回数9:57打者,17被安打,13自責点,12四死球,2奪三振,0被本塁打)

 

 エースの鈴木が怪我の影響もあり防御率5点弱と不安定な状態で前半戦を終えた。2部時代も時に大崩れして滅多打ちされることが年に一度は少なくともあった。もちろん一部の強打者に苦戦している部分も大きいが、今年はあの悪い状態が長引いている感じだ。その代わりになるべきなのが小澤なのだが、防御率10点台と誤算。投球回数より多い四死球はある意味持ち味でもあるのだが、被安打が多すぎるのがいただけない。坂井寛子なみの長身若手の井俣はなかなか頑張っており、初勝利の織機戦でも良い投球をした。ただし自責点1ながら失点は4あり、やや不安定な印象が強い。
 そんな中で頑張っているのが梅津。勝利した織機戦、戸田中戦でともに先発。織機相手には4回途中まで無失点で、戸田中戦では先発し降板したが、4回途中から再出場して最後までゼロ封した。山形の上山明新館出身のいかにも芯の強そうな顔をした新人投手である梅津。伊予銀の西村瑞紀、ソフトウェアの山中しほ、太陽誘電の森真里奈、佐川急便の信長香菜、トヨタ自動車の細野了華と村瀬文香と、将来楽しみな素材の多い今年の高卒新人の中にしっかりと名乗りを上げてきた。ひと夏越して急激に伸びるのがこの年代であり、後半戦も楽しみだ。
 ※同じ上山明新館出身の広島カープ・梅津との関係は??

 

<2010年前半戦の不運>
 その大鵬薬品で明らかに前半戦にひとつ不利な点があった。それがトヨタ自動車とセットで移動したことである。アボットを要し前半戦全勝で乗り切ったトヨタ相手に、中堅チームはエースをぶつけることを避け、逆に大鵬戦にあててきた。Hondaのネルソンや佐川急便のスメサートがそうで、デンソーにしてもトヨタ戦での先発は新人の重藤だったが大鵬戦は染谷だった。そのトヨタが後半一緒にまわるのがライバル伊予銀行なのがまた面白い。ただ伊予銀は前半戦でもルネサス高崎と一緒に回っており、その逆のパターンになるのが大鵬の後半戦である。対戦相手がどの先発投手でくるのかも、大鵬や伊予銀の一部残留に大きく影響するだろう。

 

<2010年後半戦に向けての戦い方>
 さて最後に大鵬薬品に対してどうしても言いたいことがある。
 森田ももちろんいい選手だ。バッティングもうまいし守備もセンスがある。しかしやはり日本リーグでもトップクラスの守備力を誇る酒井をセカンドに置いておくのはもったいないのではないか。あの内藤恵美の穴の織機の遊撃を見事に埋めた選手が酒井なのだ。蒸し返すようで悪いが、開幕の伊予銀戦でセンター上釜が後逸した際にも、ショートの森田がグラブに触れて打球方向を変えてしまっている。もちろんそこまで追い付いたのは森田の能力なのだがどうも守備の流れが悪い。ここはひとつ後半はショート酒井で挑んでみたらどうだろうか。Hondaも結局は昨年のショート村上とサード加藤を入れ替えてうまくいったように内野がしまると思う。森田ももともとはセカンドではなかったろうか。
 そしてどうしても復活してもらいたいのがエースの鈴木。梅津がいいとはいえ、やはり最後は鈴木が出てこないと苦しいことは間違いない。

 とにもかくにも、守備の入れ替えどうこうは別にして、前半最終節の2連勝で生き返った大鵬薬品の後半戦である。最下位脱出できるのか、入れ替え戦に回るのかそれも回避できるのか、大鵬の活躍で残留争いが例年以上に熱く激しくなることだけは間違いない。ただ今でこそ楽しみでならないが、実際に最終節が近づいてくるとどこのチームも2部落ちしてほしくない辛い気持で見ることになるんだろうな…。

 

<おまけ>
 さて最後につけたし。
 最初の方で「今の(大鵬の)チームに1部を時代の大鵬を知る選手はいない」と書いた。それはそれで間違いではないのだが、実は1部時代の大鵬を知る現役選手が一人1部に存在するのだ。
 それは同じ薬品会社であるライバルチーム・シオノギ製薬の現キャプテンの藤田恵である。藤田は2001年、和歌山の笠田高から1部の大鵬に入ったが1 年で退社し大阪国際大に進み、その後シオノギに入って再び1部リーグの選手となった。大鵬時代は投手で2回を投げ本塁打を1本打たれている(誰に打たれたのだろうか)。また代走にも出て1得点している。実はこんなところに一人だけ1部大鵬の生き残りがいたのだったのだ(2部にはドリームワールドのキャプテン小原がいる)。

 

<パンチ力のある1番打者・佐藤>



<4割超えと絶好調の中山>



<頼り甲斐抜群のキャプテン佐々木>



<4番ファースト山崎・背番号22>



<相変わらず守備は完璧、酒井>



<1年目にしてホームランも放った鷲野>



<守りに関してはかなりハイレベルな増井>



<今の大鵬を代表する選手といえばこの人、森田>



<レベルの高いスラッパー、上釜>



<完全復活が待ち遠しい去年までの2部の大エース、鈴木>



<1年目からしっかり結果を出している梅津>



<小柄ながらイキの良い投球が身上のタワシ頭小澤>



<大鵬での代走はといえばこの選手、濱田>



<将来期待の長身投手・井俣(左)、もっとプレーを見たい外野の控え・北原(中)、DPでの活躍が待たれる・伊藤(右)>



<鷲野をイジめる稲垣(笑)>

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