【前半戦総括~日本リーグ1部・その1:上位4チーム】


1位:トヨタ自動車(10勝1敗、●デンソー)
 ここ数年はほとんど顔触れが変わらず、完全に熟し切った感のトヨタ自動車。今年はそこに長崎望未という大型新人が入り、怪我の前薗理絵の穴を十分に埋める活躍でさらに戦力が増した。
 第2節の地元豊田大会で、ミス(※)を重ねてデンソーに1敗したが、相手の染谷美佳投手も今年は絶好調なので敗戦自体は特に問題ではない。それどころかむしろこの1敗をうまく利用して、チームはますます強くなったような気がする。
 完璧な選手が揃うトヨタで、唯一にして最大の弱点が遊撃手ワトリーの守備力だった。開幕のソフトウェア戦でも1点差で勝ちはしたが、このワトリーの失策から出した走者で同点にされてもおかしくない場面があった(相手の走塁ミスに助けられたが)。三遊間に飛んだ打球に対しての処理が緩慢だったり、バウンドを合わせ損ねることの多かったワトリーだが、アメリカ代表の主力選手でもあり世界一のリードオフマンでもあることから少々のミスでは替えることはできない。それがデンソー戦でミスをして失点につなげてしまいアボットの連勝記録をストップさせたことで「いいキッカケ」ができた(この試合後、ワトリーはDPで起用されることとなる)。
 ただあの試合、ワトリーのミスの前にファーストの藤崎由起子もミスを犯している。敗戦後の監督インタビューで「ミスをした選手は外す」と言っていたことから、「藤崎だけを外してワトリーには手をつけられないんじゃないか」と思っていたが、次の試合から思い切って二人を外してきた(ワトリーはショートをはく奪)。あんな世界的にすごい選手に対してミスを理由に外すというのは大英断だし、監督としてよほど力量がないとできないことだ。ただ、すごい選手でありながら人間的にも素晴らしく、外されたからと言って決して腐ることのないワトリーだからこそできたことでもあるだろう。しかしそれでも、ミスを犯したのがワトリー一人だったら外せたかどうか。あの試合で藤崎も同じようにミスをしてくれたからこそ二人を同時に外すことができ、そしてどちらの選手にも大きな痛手を負わせずに済んだ。その後もワトリーはどんな投手からも打ちまくり、代わりに出た渥美万奈も4割を超える打率を残し、藤崎の代わりに出た馬渕朝子もブレイクし、そして藤崎も毎試合何かしらの形で出場してチームに貢献している。
 そういう意味ではあの試合は「非常に大きな価値のある1敗」であり、それ以上に「非常に大きな価値のある藤崎のミス」だっただろう(笑)。
※デンソー戦でのミス
 デンソーの先頭の倉成が一塁内野安打で出塁し、進塁後に、松本のショート強襲ヒットで決勝点を奪われた場面。公式記録では二つともヒットだが、普通に判断するとともにエラーがついてもおかしくないプレーだった。

<前半戦打率ベスト3(10打席以上の選手、カッコ内は打席数)>
0.487(46) N・ワトリー
0.486(45) 鈴木美加
0.400(29) 渥美万奈

<本塁打を放った打者(カッコ内は打席数)>
3(45) 鈴木美加
3(46) N・ワトリー
1(40) 長﨑望未
1(36) 小野真希
1(43) 藤野遥香
1(29) 渥美万奈


2位:ルネサスエレクトロニクス高崎(9勝2敗、●織機、トヨタ)
 開幕戦でオスターマンに投げ負けたのは仕方がないとして、大鵬戦でノックアウトされたりと今一つ調子が上がらない上野だが、それでも防御率が0.73なのだからすごい。むしろ今年は打つ方で活躍し、4番の岩渕有美とほぼ変わらない成績を残して前半戦を終えた。
 高卒新人の市口が0.545と驚異的な打率を残しているのだが、前稿でも書いたように、比較的楽な相手に楽な場面で打ったものがほとんどなので、この選手が前半戦のチームの好成績をぐいぐい引っ張った、という感もしない。日本代表に選ばれている山本優にしても蔭山遥香にしても打率がそれぞれ0.189、0.194と相手投手を考えるとサッパリで、結局は長年チームを支えてきた岩渕有美、大久保美紗、峰幸代の3人が打線の軸として支えてきた前半戦だった。宇津木麗華監督も今年は微に入り細を穿つような選手起用で多くの打者、投手にチャンスを与えており、そのことも好成績に大きく影響しているだろう。投球回数10回の黒川春華や12回の山下絢などずっと上野の控えだった投手たちも今年は例年以上に大事な場面で起用されて結果も残している。いろいろな勝つパターンを持っているチームでもあり、やっぱり強いな、という印象である。
 ただそれでもデンソー、誘電に1点差の辛勝で、大鵬にもあわやという場面もあり、トヨタのように力でねじ伏せるチームでもない。それでもこの前半戦9勝2敗の好成績には「相手がルネサスだから」、「相手が上野だから」ということで相手チームがエースを避けて勝手に萎縮して戦意喪失してくれたことも大きな要因だろう(毎年のことでもあるが)。ただ後半戦で一緒に回るのが最下位の靜甲であり、その点がどう働くか。誘電とまわった前半戦は相手がエースを誘電にぶつけてルネサス戦は避けたが、靜甲とともに回るなら相手がルネサス戦にエースをぶつけてくることは十分予想される。非常に楽しみなルネサスの後半戦であるのだが、それでもやはり志の低い中堅チームは靜甲戦にエースをぶつけ、ルネサス戦は半分捨てゲームで臨むことになるかも知れないが。

<前半戦打率ベスト3(10打席以上の選手、カッコ内は打席数)>
0.545(27) 市口侑果
0.471(43) 大久保美紗
0.417(13) 金澤杏奈

<本塁打を放った打者(カッコ内は打席数)>
1(35) 岩渕有美
1(18) 中野久美
1(30) 上野由岐子
1(41) 山本優
1(27) 市口侑果


3位:豊田自動織機(8勝3敗、●誘電、佐川、トヨタ)
 ルネサスに勝ち、ソフトウェアにも快勝しながら、誘電と佐川急便にエースのオスターマンをほぼ完投させての敗戦。そしてその試合まで全敗だった靜甲相手にも相手のエース鈴木麻美に翻弄され、最後は何とかサヨナラ勝ちと、強いのか弱いのかサッパリわからないいつもの織機が今年も見られて、ファンとしては本当に嬉しい限りである(もちろん皮肉である、笑)。
 2節の初戦でいかに誘電の森がいいとはいえほぼ何もできないまま完封負けで、しかもオスターマンもしっかりと打たれた。マクセル戦には勝利したが3節の佐川急便戦でまたしも打線が沈黙して1点差負けと、正直その時点では「今年はもうダメかも」という雰囲気が漂っていた。田中幹子、長澤佳子、松岡恵美、小森由香といった長年チームを引っ張ってきた日本を代表する選手たちが抜けた穴の大きさをようやく痛感しているわけだが、それでもこの成績を残せているのはもちろんオスターマンさまさまでもあり、そして何より織機が持っている「伝統の力」そのものではないだろうか。
 努力して苦労していい成績を残し、「強い織機」の伝統を築きあげてきてくれた過去の多くの選手たちの積み重ねが、結局はこの成績になって表れているような気がする。なのにどうも今の選手たちはその伝統を背負う重みや大切さをあまり理解していないような気がしてならない。20年近く決勝トーナメントに出続けてきたチームの一員であるという誇りと責任感を持って、もっともっと一人一人が大きく成長してほしいと願っている。あまりにも身近に松岡や田中がいたからついそれに甘えかつ「自分たちとは世界が違う」と思いすぎてないか。若手はあの偉大な選手たちを目標にするどころか追い越してくれないと困るのである。
 うーむ、前半戦の総括というか、こりゃ完全に織機の若手に対する愚痴だな(笑)。

<前半戦打率ベスト3(10打席以上の選手、カッコ内は打席数)>
0.433(34) 国吉早乃花
0.364(13) 川口藍
0.342(39) 白井沙織

<本塁打を放った打者(カッコ内は打席数)>
2(39) 白井沙織
1(13) 川口藍


4位:日立ソフトウェア(8勝3敗、●トヨタ、ルネサス、織機)
 終わってみれば8勝して4位タイ。馬渕智子が抜け、完投できる投手も藤原麻起子一人なことを考えると十分すぎる結果であるが、あの打線の粘り強さはそれこそがこのチームの伝統でもあり持ち味で、決して偶然のことではないだろう。
 その粘りが最初に出たのが第2節の大鵬戦。大鵬の1番佐藤光紗の大活躍などで5対3と2点ビハインドで迎えた5回裏、3つの四球に3つの内野ゴロと送りバントを絡め、外野に運んだのは濱本の犠牲フライだけというノーヒットの攻撃で一挙に4点を奪い試合をひっくり返してしまった。そして極め付けが雨で中止となった4節神奈川大会の予備節の天城大会佐川急便戦。体調不良で試合帯同できなかったエースの藤原に代わって先発した山中しほが打たれて序盤で2失点、その後山口憲子もホームランを打たれ3点差で迎えた7回裏にまたしても奇跡的な粘りを見せる。濱本静代が粘りに粘って佐川のエース、スメサートから四球を選ぶと、山田恵里がしっかりヒットでつないで無死一二塁、ここでこの試合まで28打数3安打の打率0.107とどん底だった5番杉山真里奈が起死回生の同点スリーランを放つと、林佑季の二塁打に最後は眞鍋幸維がエンドランを決めてサヨナラ勝ち。これ以上ない最高の結果で前半戦を締めくくった。
 その2試合以外にもHondaに1-0、誘電に5-4、マクセルに3-2と、すべて1点差ながらしっかりと勝利は収めており、結局負けたのは上位陣3チームにだけだ。去年までのソフトウェアのように爆発的に打ち勝ったのは靜甲戦だけで(11-0)、今年はチームとしても実にしぶとい試合を続けている。予備節で活躍した山口が後半戦で少しでも使えるようになればもっと楽に戦えるようになるのだが、この打線の勝負強さが続けばやはり今年も最終4チームに残ってくるチームになるだろう。ただ4位争いのライバル、デンソーが大コケしてくれてはいるが、代わりに誘電が1敗差で迫ってきているため決して油断できない。1試合も取りこぼせない、公式サイトの試合速報が一喜一憂の大わらわになる後半戦になるのは間違いない(笑)。

<前半戦打率ベスト3(10打席以上の選手、カッコ内は打席数)>
0.357(35) 山田恵里
0.300(36) 濱本静代
0.300(39) 溝江香澄

<本塁打を放った打者(カッコ内は打席数)>
2(35) 山田恵里
2(36) 林佑季
1(39) 溝江香澄
1(34) 杉山真里奈
1(28) 田邊奈那
1( 1) 濱名真未

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