【No.17 上野由岐子(ルネサス高崎)】
マスコミはアホの一つ覚えで「119キロの世界最速投手!」としか言わないが、スピードに関してはもちろん、上野はただ速いだけの投手ではない。
チェンジアップやコントロールも超一流である。
ただ個人的に見て、そんな世界に3本の指に入る名投手が唯一天敵としているものがあると見ている。それは「雨」である。
上野に限らずソフトボールはボールが大きい上に雨が降ると皮が滑りやすい。だからいい投手ほど雨を極端に嫌う。ソフトボール界の歴史上最高の選手でもはや神のような存在のミッシェル・スミス(豊田自動織機)投手でさえ、雨の日の投球を嫌う。
加えて、どうも上野は雨に祟られることが特にここ最近多い気がする。
昨年の決勝トーナメント、年間8失点しかしていない上野が決勝トーナメントの2試合で6失点し、最終決戦前にルネサスは敗退した。
その時も、好投を続けていた5回に小雨が降り出し、豊田自動織機のキャプテン小森に打たれた2塁打を足がかりにされ3点を失った。
同じ年の6月、首位を争うレオパレスト上野擁するルネサスが山形で対戦した。レオパレスの先発はオーストラリア代表のベテラン投手、メラニー・ローチ。ともに点を取られる気配のないまま5回まで無失点で迎えた6回、レオパレスの攻撃が始まると突然雨が降り出した。
上野にとって不運なのが、その時間帯が本来ならすでに試合が終わっているような時間だったことである。
山形大会二日目の第1試合はトヨタ自動車対戸田中央病院の試合。この試合、トヨタ自動車の猛打が爆発し、初回の7点をスタートに計17点を奪うすごい試合だった。加えて、トヨタ自動車の攻撃中のフェアの判定をめぐり、戸田中の坂本監督が執拗に抗議。それで第2試合が1時間近くも予定より押してしまった。
さて迎えた6回、突然強く降り出した雨の中打席に入ったのは今回五輪代表に初めて選ばれたレオパレスの2番藤本索子。上野の球を叩いた打球は左中間を抜ける3塁打となる。
続いて打席に入ったのは、アテネから2大会連続出場となる佐藤理恵。上野の速球を弾き返した打球は中前に抜ける先制適時打。さらに続く四番、ベストナインの常連井上が左中間にトドメのツーランホームラン。怒涛の攻撃で3点を奪ったレオパレスがルネサスを下し、そのまま連勝街道を突っ走り初のリーグ戦1位通過を成し遂げた。
雨が降り出すといかに剛球上野といえど相手に若干の攻略の隙が生まれる上、どうもここぞという試合で雨を引き寄せる不運が付いてまわっているような気がしてならない。
夏季五輪で雨の印象はあまりないのだが、北京では雨も降りそうな感じだ。唯一の心配は雨だけである。
強いてもう一つあげるとすると、小柄な左打者、思い切りのいい打者に痛打される印象があることである。
さきの藤本もそうだが、織機の小森やレオパレスの渡邊などに長打を打たれている印象がある。
逆に名のある強打者はきっちり抑えてる印象もあるが。油断するわけではないだろうが、相手に小柄だが思い切りのいい左打者が出てきたら要注意である。
【No.21 坂井寛子(太陽誘電)】
上野ばかりが注目されるが、ようやく坂井の必要性も一般的に認識されてきた感がある。
とにかくこの投手は国際試合に滅法強い。逆にいうと、リーグ戦ではいつも攻略されている印象がある(笑)
特に織機戦では弱く、ほとんど勝ってないのではないだろうか。ただ織機に勝てないのは坂井の責任ではなく、チーム全体にひろがる王者に対する萎縮感のように思える(太陽誘電自体から戦う前から「どうせ負ける」みたいな雰囲気が手に取るように伝わってくる。山路監督の人の良さが裏目に出ているようなw)。
ストレート、変化球、コントロール、どれをとっても圧倒されるようなものは感じないが、しかしそれらを駆使する投球術は絶品である。上野とならんでのエースと言う認識がされているかもしれないが、本当に勝利を目指すなら坂井をここ一番で登板させてもいいくらいだ。
ほとんどの選手が京都や神奈川、埼玉、兵庫の名門校出身の中、坂井は石川の金沢高校出身。戸田中央病院に入り、一人で弱小チームを引っ張り、リーグ戦ベスト4入りさせ西京極の決勝トーナメントに導いたこともある。海外勢に滅法強いのも、この反骨精神溢れ出そうな経歴も関係しているのかも知れない。
身長177センチはリーグでも1,2を争う長身であり、意外と美人であることも隠れた魅力である。
【No.16 江本奈穂(豊田自動織機)】
上野、坂井がクローズアップされるが3番点として安心して試合を任せられるのがこの江本奈穂である。
京都西山高校出身で、日本代表の不動の1番打者狩野の1年後輩。ともに高校時代は主将を務めた。
最初に入社したのはミキハウス。リーグ1年目から活躍しチームも決勝トーナメントに進み個人的に新人賞も獲得したが、その年をもってミキハウスが廃部した。
新規参入の佐川急便がチームを丸ごと引き継いだが、規定により2部からのスタートとなる。
すでに歴史に残るような実績を残しており日本代表にも名を連ねていたミキハウスの4番田中幹子とともに二部落ちするチームから豊田自動織機に移籍したのは、その時点で日本を代表する投手になる素材と認められていたからであろう。
豊田自動織機には日本のソフトファンなら知らない人はいない代表の元エース高山樹里がいるが、その高山でもあまりリーグで投げられないほどの世界一の投手ミッシェル・スミスがエースに君臨している。
当然若手の江本はリーグで投げる機会は激減したが、どうやらこの二人の背中を見てすくすくと成長したようである。毎年投球術は向上し力強さも増しいい投手に成長してきた。
何より江本の長所はその快活さである。リーグで投げられようが投げられまいが、勝とうが負けようが、常に天真爛漫。好きなように生きていつも明るくのほほんとしている。
いざ上野、坂井に何かあっても、どんな場面で重要な場面を任されても、本人は何も考えず普通にニコニコ笑って投球するだろう。
江本の投球からも目が離せない。
【No.14 染谷美佳(デンソー)】
ブラジル出身の日系人であるのは有名なところであり、日本で活躍するために高校から単身来日し代表を勝ち取った喜びは誰よりも大きいだろう。
がしかし、ほんの少し複雑な思いもあるのではないだろうか。
代表の投手枠は4人。上野と坂井は実績、実力、経験すべてにおいて別格、さらに常に成長し続ける江本も早くから代表入りが確実視されていた。
残り1枠をソフトウエアの藤原麻起子や瀬川絵美、シオノギの松村歩などとも争ったがやはり最後まで残ったライバルは同じデンソーの同僚で2大会連続で五輪を経験している増淵まり子である。
個人的にも最後は経験豊富な増淵が選ばれるのではないだろうかと予想していたが、結局は増淵を押しのける感じで染谷が選ばれた。リーグではほぼ同じ投球回数だが防御率2.43と今年調子の上がらない増淵に比べ0.83と染谷のそれは抜群の安定感である。
何より、前半戦最終の第5節で昨年の覇者豊田自動織機を完封したピッチングは圧巻で、過去の実績や潜在能力で選ばれる感の強いソフトボールの代表選手においては珍しく現時点での調子や直近の成績から実力で手に入れた代表の座である。
経験的には若干不安な部分もあるが、がむしゃらに強い球を投げ込む投球の勢いは代表でも随一である。
仮に格下相手に登板しても、決して手を抜かず力でねじ伏せ、日本に更なる勢いを呼び込むような投球をしてくれることだろう。
ちなみに、妹も実業団のソフトボール選手である。去年までは同じデンソーに所属していたが1年で見切りをつけられ、その後、二部の日本精工に移籍した。。同じ投手だがブラジル出身だけに投げる球以前に ソフトボールのプレー全体にまだまだ未熟な部分が多い。
それでもボールの勢い自体は二部では光るものを見せているだけに、 姉の背中を追ってどんどん成長していってほしいものである。