ルネサス高崎 000 0000 0 …0
トヨタ自動車 000 0000 1x…1
●上野由岐子 - 峰幸代
○モニカ・アボット - 渡邉華月
(二):渡邉華月(ト)
【最後の場面】
最後にワトリーにサヨナラヒットを打たれた後、一番気になったのが「上野がどんな表情してるかな」ということだった。そしてそこで峰と顔を見合わせ、苦笑交じりの笑顔になってるのをみて、なんというかホッとした。
<サヨナラ負けにも苦笑いだった上野>
延長タイブレイカー8回裏、小野がしぶとくゴロを転がして走者を三塁に進めて迎える打者はワトリー。いくら次打者が今日良い当たりもあった鈴木美とはいえ、勝つことだけを考えれば、当然ワトリーを歩かせて鈴木美と勝負だった。もちろんそれくらいはルネサスバッテリーも重々承知のことで、その証拠にワトリーに対して3-1から空振りを取り3-2となってからも、峰がわざわざ立ち上がって両手を大きく広げ「広く広く」と上野に指示していたからだ。もちろんこれは「ストライクゾーンを大きくつかって、歩かせてもいいから」という仕草に他ならない。
でもこの場面で上野はボール球で逃げの投球をするのではなく、ストライクゾーンで勝負し三振を取りに行って、そして結果的に打たれた。
もしこの勝負が決勝トーナメントの最終戦なら、峰はそのまま立ち上がって歩かせた可能性も高いし、座ったとしてももっとボールのコースを要求したはず。でも今回は峰はそのまま座って、勝負するかどうかも含めて上野に判断を預けたのではないか。
ソフトボールの記念すべき2012年の開幕節で、その最終戦でのライバルトヨタ自動車との対決。しかも一打サヨナラの場面で相手打者はワトリー。見に来てくれている多くのファンのためにも、ここは「ワトリーとの勝負を避ける上野」ではなく、「ワトリーを三振に取る上野」をどうしても見せたかったのだろうと思う。もちろん、アボット登板のトヨタ自動車相手に延長に持ち込んでる時点で、たとえ負けたとしてもリーグ戦のことを考えればチームとしてもほぼ引き分けに等しい負けで大きな痛手はないし、その辺は冷静に考えてもいただろう。そういう状況の中で、最後は純粋にワトリーと勝負を楽しんだのではないだろうか。ただ勝負という選択肢に後悔はないが、「ちょっとボールが甘かったなあ」というのがあって、それであの峰との苦笑いになったように思う。とにかく、勝負したことに対して上野が全く後悔してないようなあの笑顔を見て、なんだかホッとしたのだ。
トヨタの福田監督が「上野が逃げずにワトリーと勝負してくれてよかった」と新聞のインタビューに答えていたが、それはもちろん「ワトリーと勝負してくれた方がトヨタとしては勝つ確率が高かった」という部分もあるが、それ以上に、「“上野対ワトリー“という真剣勝負をあの場面で多くのファンに見せてくれてありがとう」という意味があったに違いない。
見ていた一人のファンとしても、あの場面で勝負に行ってくれた上野には心から拍手を送りたい。
【1~5回】
当然のように上野、アボット両投手が好投しともに0行進。アボットは5回までパーフェクトピッチング。
<ミッシェル対上野と同じく、この二人の投げ合いを生で見られるのは日本のソフトボールファンの特権>
【6回表:ルネサス】
1アウトから、開幕スタメンに抜擢された大工谷が大仕事!エポック野球盤の銀色のバットみたいなスイングでアボットの剛球にバットをぶつけると打球は二遊間へ。
この打球がショートワトリーとセカンド鈴木の間の絶妙の位置にポトり。その後ワトリーの大暴投でもう一人ランナーが出たが、おそらく大工谷のヒットがなければルネサスは開幕戦パーフェクトをされていただろう。
アボットの投球にバットを当てるためだけのスイングを続けた大工谷の、値千金、素晴らしいヒットだった。
<去年からミスを繰り返しても繰り返しても起用されてきた大工谷。この選手が起用される理由がわかった>
【6回裏:トヨタ】
とはいえトヨタも上野の前に1安打のみ。その1本を放っている渡邉がこの回の先頭打者でツマッた当たりながらもファースト大久保のグラブをはじく二塁打で出塁。絶好のチャンスだったが続くワトリーが走者を三塁に進められなかったのが響いて得点できず。
<昨年の優勝決定サヨナラツーランといい、上野に相性がいい渡邉。かつて織機の小森由香が上野にめっぽう強かったが、それに匹敵する相性の良さ>
【7回裏:トヨタ】
2死となって打者は藤崎。延長戦突入かという空気が流れだした瞬間、上野の球をジャストミートした藤崎の打球がライト後方へ!あるいはサヨナラホームランか!?「前に『上野相手だと延長にならんと点が取れない』なんて言ったのはとんだ冗談なんだよ!」とでも言わんばかりの完璧な打球だったが、無情にもライトポールをわずか1~2m切れるファールに。
あそこで上野からサヨナラホームラン性の打球を放つ力を持っているのが藤崎であるとするならば、その打球がわずかに切れてしまう不運もまた藤崎なのだ。
<上野の剛球を完璧にとらえた藤崎の打球だったが…>
【8回裏:トヨタ】
そして8回裏。
大ピンチを招いた大暴投あり、絶好のチャンスで走者を進められないバッティングあり、いいところの全くなかったワトリーが最後にようやく仕事をした。
<サヨナラヒットを放ち大喜びのワトリー>
この両チームの戦いはもはや毎試合が歴史になる。