【2010年もう一人の外野手ベストナイン ~ 実質的な首位打者・中山亜希子(大鵬薬品)】
日本リーグも2010年のベストナインが発表された。外野手はほぼ順当な3選手(藤野遥香、馬渕智子、白井沙織)が選ばれたが、中でも白井沙織は“ようやく選ばれたか”という感がするほど初選出が不思議なくらいにリーグでも屈指の外野手である。
しかし、やはり今年は大鵬薬品の中山亜希子の活躍に光を当てないわけにはいかない。結局何のタイトルもとれず、表彰もされなかったこの中山亜希子が、個人的には2010年の外野手で、そして日本人打者でNo.1だったと強く思っている。そして表題のように、今年のベストナインには彼女も十分相応しかったと思っている。
またしても少々長くなりそうなわけだがここはしっかりと情熱をこめて語ってみたい。
【外野手4選手の2010年の成績比較】
記者投票や関係者の合議ではなく、さまざまな個人記録データに基づくいわゆる「秘密の方程式」により機会的に算出される日本リーグのベストナイン。選ばれる選手の人選を毎年見ていてほとんど違和感がないことから、周りから見た印象がほぼ忠実に反映される妥当な方程式であることは間違いないのだが、しかしそれでもやっぱり問題がないことはない。
それは方程式の係数にかかわる問題ではなく、その元になるデータそのものに本質的な問題があるからである。
とにかくまずは外野手のベストナインに選ばれた3選手と中山の成績を比較していきたい。
<打率(安打数)>
0.424(28) 藤野遥香
0.406(28) 中山亜希子
0.403(29) 馬渕智子
0.369(24) 白井沙織
※中山は安打数28で打率はこの中では2番目。全選手の中でも4番目で、日本人選手全体の2位でもある。
<出塁率>
0.457 藤野遥香
0.449 馬渕智子
0.417 中山亜希子
0.382 白井沙織
※出塁率も高くこの中で3番目、日本人選手全体でも5番目である。
<長打(二塁打-三塁打-本塁打)>
7-0-1 藤野遥香
6-1-1 中山亜希子
5-0-3 馬渕智子
5-0-3 白井沙織
※1番打者でありながら長打も多く、6二塁打、1三塁打、1本塁打はリーグのトップ4の主力打者と比較しても見劣りしない。
<補殺>
3 中山亜希子
2 藤野遥香
2 馬渕智子
1 白井沙織
※補殺も多く、この数字は狩野亜由美や山田恵里などの代表選手と同じ数字。肩も強く守備は上手い。
<得点>
16 藤野遥香
15 白井沙織
14 馬渕智子
13 中山亜希子
※得点は4番目だが、最下位争いのチームで13の数字は立派ではないか。
<打点>
17 馬渕智子
11 白井沙織
11 藤野遥香
5 中山亜希子
※中山の打点は低くこの中では最下位で、藤野や白井の半分以下、織機の9番打者菅野愛と同じ打点である。結局、白井や馬渕と差がついたのはここだろう。
【チームへの貢献、チームから受ける恩恵】
ベストナインを選出する際に使用するいわゆる「秘密の方程式」でもやはり打点や得点は重視される。秘密の方程式を使わなくても、ソフトボールでも野球でもやはりその数字は「チームへの貢献度」として重視されるはずだ。
上で見てきたように、その打点について中山が他の3選手より極端に低かったわけでその点評価が下がったはずなのだが、これが中山にとってかなり不利だったのだ。
この4選手が所属する4チームの今年の総得点、総打点を見てみたい。
(総得点-総打点)
108-105~トヨタ自動車
122-113~豊田自動織機
106- 94~日立ソフトウェア
46- 44~大鵬薬品
一目瞭然、やはりベスト4のチーム(トヨタ、日立、織機)と、入れ替え戦争いしたチーム(大鵬)では大きく違い、倍以上の差がある。得点などは大鵬薬品は織機の三分の一でしかない。
チーム全体がもっと打っていれば、あれだけ塁に出た中山の得点はもっと増えたであろうし、1番打者といえども打点ももっともっと増えたはずだ。
常々感じていることだが、打点や得点というのは打順によっても大きく影響されるのはもちろん、何より前後の打者が打つか打たないかという影響が非常に大きい。つまり打点の多さや得点の多さは、単に「チームへの貢献度」というだけではなく、同じくらいの意味で「チームから受ける恩恵」でもあるのだ。
中山は、1番打者という打点を稼ぐ意味では不利な条件に加え、総得点46、総打点44というチームから受けた恩恵があまりにも少なすぎたとしか言いようがない。
そんなチームにあっても、全46得点のうちの約三分の一である13得点を挙げた中山が、これら4選手の中でもっともチームに貢献した選手と、言えなくはないだろうか?
【さらに中山亜希子に不利だった点~彼女を実質的首位打者としたい理由】
日本リーグはご存じのとおり前後半で同じチームと2試合、合計で全22試合を行う。レギュラー選手であればおよそ70打数前後が平均で、その場合1安打多いか少ないかで打率は1分5厘も上下する。
(打数-安打)
68-30 N・ワトリー
66-28 藤野遥香
69-28 中山亜希子
72-29 馬渕智子
65-24 白井沙織
上は4選手に首位打者のワトリーを加えた5選手の今年の打数と安打数である。藤野と中山は安打数は同じでわずか3打数の違い。首位打者ワトリーとは1打数多く2安打少ないだけである。
ほんのわずかな差なのだが、その打率に影響するもう一つの、というよりもっと大きな要因がある。それが「対戦投手」である。そしてそこには日本リーグの特徴でもある「どのチームと一緒になって前(後)半戦を回るか」というのも強く影響する。
前半戦トヨタと一緒にまわった大鵬薬品は、相手チームが負ける可能性の高いトヨタにではなく、勝利を計算しやすい大鵬戦にエースをぶつけてきたことが多かった。
たとえば佐川急便はトヨタ戦には帰山-外山で大鵬戦にはスメサート、Hondaはトヨタ戦には金尾-稲元で大鵬戦にはネルソン-金尾、デンソーもトヨタ戦先発は重藤でその後山田-染谷-重藤と継投だったが大鵬戦は染谷が完投、といった具合である。
もちろん、トヨタ戦に上野をぶつけて大鵬戦はローチだったルネサスや、トヨタ戦でバークハートで大鵬相手に宮本-江本だった織機という逆のパターンもあったが、それでもローチや宮本という一流投手が相手なわけである。
後半戦、上野を擁するルネサスと一緒にまわった時も似たようなもので、常に中堅以下のチームにはエースをぶつけられてきた。後半戦も佐川急便は大鵬薬品にはスメサートでトヨタには外山-帰山だった。
しかし何より互いのチーム同士、トヨタと大鵬を比べるだけでも十分だろう。
大鵬の中山は前後半の2試合でおそらく8打席くらいをアボット(山根も何打席かあったはずだが)と対戦している。逆にトヨタのワトリーと藤野はその約8打席をアボットとはもちろん対戦せず、大鵬の投手と対戦している。アボットと対戦しなくていいトヨタのワトリーや藤野と、大鵬の中山では、1安打で1分5厘も打率が変わるような少ない打席での勝負では、あまりにも影響が大きすぎるのだ。
そんな中で残したこの高打率、首位打者に等しいものであることは間違いないだろう。
【こんな選手が埋もれていた「2部」というもう一つの舞台】
さていかに今年の中山亜希子の活躍が素晴らしかったかを数字を見ながら頑張って強調してきたが、最後はやっぱりここに最大の力点を置きたい。
2009年に2部で優勝し、2010年1部に4年ぶりに復帰した大鵬薬品。しかし織機から移籍してきた酒井かおりを除いて1部経験者がおらず、ほぼ全ての選手がはじめての1部への挑戦だった。そんなチームの中に、1部の舞台1年目で馬渕智子や藤野遥香や白井沙織に負けない活躍をし、山田恵里や狩野亜由美の代表コンビより上を行き、ワトリーと首位打者を争うような選手が埋もれていたのである。チームが1部に上がらなかったら、こんな選手が多くのファンに知られぬままにユニフォームを脱いでいたかもしれない。
実際にそういう選手が2部では数多くいたはずだし、今も存在する。
大鵬薬品に入部し打ちまくり、その後日本精工に移籍したが引退した松山夏美などまさにそういう選手だっただろう。その日本精工には福本まどかという素晴らしい捕手がいる。島根三洋の古瀬由梨亜や古賀三香子などもいい選手だし、東海理化の赤堀栄美や越智華奈子、東芝北九州の古賀香須美 なども1部選手と見劣りしない。
今年1部でベストナインを獲得したまま2部に行く中森菜摘なども同じような選手だろうし、また来年1部に復帰する靜甲には鈴木優子や植松尚子や萩藤寛子、河部祐里や鈴木麻美と言った素晴らしい選手たちがいる。
中山亜希子の今年の大活躍は、2部に所属する選手の中にも1部選手にひけをとらない選手たちがいることを証明してくれた点で、何にもまして大きいのである。
<低い重心から左右に打ち分けるバッティングで高打率をマークした中山亜希子(大鵬薬品)。昨年は2部で0.235だった打率が今年1部で大ブレイク。しかしこの成績を続けてこそ本物。来年の活躍にも大注目>