【2008年ゴールデングラブ賞発表】

日本リーグが終わり、ベストナインも発表された。
ソフトボールでも特に守備好きなものとしては、やはり守備だけでの評価もしてあげたい気になったので今回このような賞を勝手に作らさせてもらいました。
実際に巧い選手を選んでいるつもりではありますが、それ以上に、見て楽しませてくれた選手を選んでいます。
3会場で行われている以上は最大でも三分の一しか見られてないので偏りもあると思います。あくまで個人的に巧いと思った、という以上に「好きな」守備の名手ですからご了承下さい。

投手:ミッシェル・スミス(豊田自動織機)
捕手:鈴木由香(日立ソフトウエア)
捕手:吉田真由美(戸田中央総合病院)
一塁:長澤佳子(豊田自動織機)
二塁:中村瞳(Honda)
三塁:白井奈保美(レオパレス21)
遊撃:西山麗(日立ソフトウエア)
外野:小野奈津子(レオパレス21)
外野:阿部環(日立マクセル)
外野:中村歩(佐川急便)

 

【投手:ミッシェル・スミス~偉大なる投手は守備でも気迫】
ソフトボールの場合、一、三塁手がかなり前進してバントの打球を処理するので投手が守備をする機会はあまりない。ピッチャー返しの打球も近すぎて打球を処理するというより「たまたまグラブに入った」というような光景が多い。唯一、スイングした打球がボテボテの場合にダッシュして処理することになるが、やはりその場面で見せるミッシェルの気迫はすごい。
「こんな打球では絶対に塁に出さない!」という強い気持ちが伝わってくる。その気迫にこの賞を贈りたい。


ちなみに投手を決めるに当たり誰が守備が巧いかよくわからないことから、知り合いのソフトボーラー数人に「守備の巧い投手は誰?」と尋ねてみた。すると返ってきた答えが全員一致の「上野由岐子」だった。それで「他にはいない?」と再度尋ねた。するとある選手が「増淵は?」と言った。ただもう一人の選手は「彼女はイップスがあるからなあ」と言った。それで僕が「露久保投手はどうですか?」と訊いた。そうしたら「まあまあ巧いよ」という答えが返ってきた。それで露久保投手に決定しようとしたのであるが、やはりここはミッシェルしかいないのではないか、と思い直した。
この決定プロセスは、少なくともWBC監督人事を決める会議の内容よりは公平性が高いと、個人的には確信している(笑)

 

【捕手:鈴木由香~幻の五輪代表は捕手としてのプロフェッショナル】
五輪代表に選ばれてもおかしくはない、守りに関してはもはや日本で一番の捕手ではないか。守りに入るときはベンチからダッシュで守備位置に向かう。捕球、リード、肩、ファールフライへの反応、全てにおいて完璧である。日本代表として活躍した峰、乾の両ルネサス捕手も甲乙つけがたいのだが、やはり守りに関しては鈴木の守備は見栄えがする。
「捕手としてやらねばならないこと」を完璧にこなせる一例が決勝トーナメントでの一コマ。コントロールが定まらず大荒れの瀬川投手に対し、一、三塁の審判がイリーガルピッチに関するクレームをつけに向かった(今年の瀬川の突然の大荒れ、ノーコンは、判定が厳しくなったジャンピングに関して神経過敏になっているからではないかと密かに思っている)。両審判がピッチャーズサークルに向かった瞬間に捕手の鈴木もダッシュで瀬川の元に走り、両審判の間に体を割り込み、注意を受ける瀬川を完全にガードしクレームを処理した。若い投手に対する思いやり、投手を一人にさせない気配りもベテラン捕手ならではのファインプレーであろう。


【吉田真由美~もう一人の幻の五輪代表捕手は根性でチームを引っ張る】
鈴木が北京五輪代表の幻の捕手なら、この吉田はアテネ五輪の幻の代表である。
物議を醸したアテネ五輪代表候補において、本来なら選ばれて当然の実力があったがルネサスと言うことで選ばれた若手の乾に弾かれる形で代表落ちした。今年五輪金メダルに湧いた日本ソフトボール界において、このように前回五輪で無念の落選をしながらもその後もずっと一部で活躍し、弱小チームを体で引っ張り続ける捕手がいることを忘れてもらいたくないために、今回は鈴木と同率(何が?)ということでゴールデングラブ賞に選出させてもらった。
しかし単にそういう個人的な思い入れだけではなく、代表に名を連ねていたほどに捕手としては実力は十分で、若い堤が見違えるように毎年成長しているのも吉田が捕手を務めているおかげである。
吉田の一番の特徴は表にあふれ出るガッツ。特に雨の試合では嬉々として泥まみれでプレーしているようにさえ見える(笑)ベンチでも一際声が大きく、シーズン当初にしてもうガラガラである。吉田の大声も、是非とも楽しんでもらいたい。「いけー!今泉―!!いってしまえ~!!」w


【一塁手:長澤佳子(豊田自動織機)~全ての打球を止めてしまう織機の厚い壁】
ここは文句なしに長澤であろう。例年に比べ平凡なミスも目立ったが、それでも自慢のでかい体を駆使し、一塁方向に飛んだ打球をほとんど全て止めてしまう守備力は健在だ。それから何より、猛ダッシュして素早くバントを処理し、セカンドやサードで走者をアウトにする技術と勇気は日本一であろう。バントや小技が試合を大きく左右するソフトボールにとって、長澤の守備力は織機が誇る自慢の武器でもある。


【二塁手:中村瞳(Honda)~美技(ファインプレー)の申し子】
世界一の遊撃手・内藤恵美をして「この二塁手は本当に守備範囲が広く、よく守る」とうならせるほどの選手。
右に左に走り回り、センター前やライト前に抜けそうな打球をほとんど全てダイビングキャッチで止めてしまう。身長148cmと小柄であるが、その瞬発力とダイビング技術で長身選手とまるで変わらない、いやそれ以上の守備範囲を誇る。Hondaの守り、Hondaの試合はこの中村瞳の守備力を軸に成り立っていると言っても過言ではない。毎試合かならず一度はファインプレーを見ることができる素晴らしい二塁手である。
練習試合を見ていても、どんな打球にも果敢にチャレンジする。彼女の守備力は、こうした不断の努力の賜物である。


【三塁手:白井奈保美(レオパレス21)~フェンスを恐れぬ根性の三塁手】
玄人好みの守備力としては織機の古田とどちらにするか迷ったが、ここはレオパレスの白井をあげたい。前進守備での左右の打球への反応の速さ、ファールフライでのフェンスを恐れないガッツは一級品である。特にその瞬発力には目を見張るものがあり、レオパレス戦では前進してきた白井の前にバスターで強い打球を打ってもほとんどが無駄に終わる。
五輪でのあのプレーがもはや伝説になりつつある太陽誘電の廣瀬じゃないのか?と疑問に思う人も多いとは思うが、やはりこと守りに関しては白井、古田が上であろう。もちろん廣瀬もかなり巧いが、それ以上に日本リーグには巧い選手がいるというすごい層の厚さである。特にこの白井は一つ一つのプレーに華があり、見ているだけで実に楽しい。


【遊撃手:西山麗(日立ソフトウエア)~グラブ捌きの芸術家】
五輪組はあえて外した部分もあるが、さすがにこの選手だけは外せなかった。派手なプレーはあまり見られないが、その柔らかいグラブ捌(さば)きはもはや芸術の粋である。彼女のハンドリングはたとえ続けざまに生卵を投げられたとしても一つたりとも割らずに捕球してしまうかのごときしなやかさがある。
西山のグラブ捌きを満喫したいなら、試合前のノックは必見であろう。僕は日立ソフトウエアの試合をみるときは必ず、何があっても彼女の試合前ノックを見るために球場に早く行く。あのノックの捕球を見ているだけで、生中10杯はイケてしまうのだ。要するに、ビール代がかさんで非常に困る選手でもある。


【外野手:小野奈津子(レオパレス21)~空飛ぶ左翼手】
捕手としてレオパレスに入り、打撃力を見込まれDPとして決勝戦に出たこともあるが、薮内裕子、古渡美奈、白井沙織と言った左翼手の好選手が相次いでレオパレスを去ったことから、本格的にレフトの守備を任されることになった。しかしその年開幕してすぐの時点で、もはやすでにリーグでも一流の守備力を誇るようになっていた。
滞空時間の長い横っ飛びで打球をキャッチする姿はまさに「空飛ぶ左翼手」である。残念ながら彼女のファインプレーの瞬間を撮影した写真がほとんどないが、それはいつも「まさか捕れるとは思えない」ような打球をアウトにしてしまうからである。むしろ彼女のすごさを表しているだろう。


【外野手:阿部環(日立マクセル)~塀際の魔術師】
元内野手だが2008年にチームが一部に昇格するとともに外野手にコンバートされた(という話しをどこかで聞いた)。それでいてGG賞に推したくなるほどのプレーを連発するのは、小林良美監督の徹底的に鍛え上げるノックの賜物ではないだろうか。残念ながら普段の練習を見たことはない。ただ試合前ノックを見ていてもわかるが小林監督のノックは実に容赦がない。内野手には強い当たりをこれでもかというほど浴びせ、外野手にはホームランやファール性の打球をフェンス際に何本も浴びせかける。そのおかげか、今年数回見ただけマクセルの試合で2度も本塁打を阻止する大ファインプレーを見ることができた。
第1節の佐川急便戦におけるポーターのホームランを奪い取ったプレーは、数あるホームラン阻止のプレーの中でもナンバー1である。


【外野手:中村歩(佐川急便)~名刀の切れ味を持つ左翼手】
ホームラン阻止なら佐川急便の中村歩も負けてはいない。素早くフェンスまで下がる距離感とジャンプのタイミングは名人芸である。他の選手のホームランは何本も奪い取り、それでいて今年はとうとう打の方で自らホームラン王を獲ってしまった。画期的な計算だと思うのだが、他人のホームランを捕った分も1本と考えれば、合計ホームラン数が8本くらいになり、つまりは歴代のシーズンホームラン記録に並んだということではないだろうか?あかんか?(笑)
もう一つ彼女には大きな魅力がある。それはなぜか普通のフライが上がると途端にフラフラし、ほとんど落としそうになりながらギリギリでなんとか捕球することである。ルパン三世に出てくる石川五右衛門の名刀「斬鉄剣」は、その名の通り鉄から何からほとんどのものは斬ってしまうが、唯一コンニャクだけは斬れない。ホームランは奪い取るが普通のフライを落としそうな中村歩の守備力は、まさに斬鉄剣のそれである(笑)

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