【解析に用いたデータ】
まずは各投手の基本的な成績を解析用にピックアップする。今回解析に用いるデータは投手の能力を表す基本的なもの5つに絞った。なお、比較のために全てのデータは比率に換算した。
(1)防御率~1試合(7回)当たりの自責点数(一般的なデータ)
(2)被打率~被安打数/打数(与球四死球や犠打を除く打者一人に対してヒットを打たれる確率=打率の逆)
(3)与四死球率~与四死球数/打席数(対戦打者一人当たりに四死球を与える確率)
(4)奪三振率~奪三振数/打席数(対戦打者一人に対して三振を奪う確率)
(5)投球数率~投球数/投球回数(1回を抑えるのに要した球数)
【その1:野手に負担をかけない投手は?】
バックで守っている野手に対して、投手が直接影響を与える要素として「ヒットを打たれること」「四死球を与えること」「三振を奪うこと」の3つがあると考えられる。
__○被安打__~ヒットになるかならないかについては、野手の守備の能力も大きいのでこの値を使うのは少し問題もあるのだが、ただやはり「ヒットを打たれない」というのは基本的には投手の能力を測る上で重要かつ分かり易い指標であるので採用した。
__○奪三振__~この値も言わば「捕手との共同作業」であるわけで単に投手の能力だけとは限らないのだが、被安打同様、やはり一般的に使われる分かり易い指標であるので問題はないだろう。
__○与四死球__~これはほとんど問題なく投手の責任と言っていいだろう。
さて以上の3つのデータのうち、被安打は「被打率」として簡単に計算できるが、与四死球と奪三振については「奪三振/与四死球」の比率として使用した。これはメジャーなどで「三振/四球」比が投手の能力評価する指標として使われているという理由もあるが、それ以上に2次元グラフに表しやすいために次元を減らした、というのがもっとも大きな理由。ただし結果的にはそれぞれを単独で扱うよりは優れた指標であることがわかった(説明略)。
☆では「被打率」と「奪三振/与四死球・比」の関係を見てみよう☆
「他の投手と比較し極端に優れた結果を示した3投手」
全27選手について計算したが、まずは見やすいように被打率の低い上位20投手について図示した。 最初にこの図からわかったのは、上野、宮本、瀬川の分布が他の選手からは大きく異なることと、3投手以外の投手についてはどうやら「被打率」と「奪三振/与四死球・比」にはどうやら相関関係がありそうなことである
「上野由岐子(ルネサス高崎)」
一目瞭然、上野の値が他の投手からは飛び抜けているのがわかる。改めて上野の能力の高さを示しているだろう。
このグラフでは、左に行くほど「被打率」が低く、且つ、上に行くほど「奪三振/与四死球・比」が高いと言う単純なグラフである。つまり上野は、ほとんどヒットを打たれず、四球1個を与える間に三振を取りまくるという、言わばほとんど一人で試合を作ってしまえる投手だ。今さらながらに、やはり、凄い。
「宮本直美(豊田自動織機)」
恐らく多くのファンが意外に思うだろう投手がこの織機の宮本。投球回数が20回と、規定回数の半分以下、上野の6分の1にも満たないわけで参考記録の意味合いが強いが、ただしその投球内容の質というのが今年如何に優れていたかをこのデータは表している。同じように投球回数の少ない投手がほぼ他の投手と同じような結果なのを見ても、やはり宮本の潜在能力の高さを表しているだろう。
「奪三振/与四死球・比」が2番目に高く、被打率に関しては上野を上回って1番低かった。今年織機のエースとして飛躍しても、何ら不思議ではない。
「瀬川絵美(日立ソフトウエア)」
極端すぎて評価が2分しそうなのがこの投手。被打率に関しては上野、宮本と並んで他を大きく引き離している。が、そんなにヒットを打たれない投手であるのに「奪三振/与四死球・比」がかなり低い。ひとえに四球を与えすぎなのだ。
ヒットを打たれないのだからどんどんストライクを取っていけばいいのに、これはもう完全に自滅状態。逆に言えば、この能力のまま与四死球さえ減らしていけば、上野に匹敵する投手に成長する可能性を持っているのだが・・・
「3投手を除いた全24投手について」
上記3投手は、野手への負担度、という項目については2008年度の成績は極端に優れた(瀬川に関しては微妙だが)成績を残したと考えられるので、全体的な傾向を見るためには除外した(外れ値の除外は統計的には常套手段であるので)。
水色の矢印は散布図の回帰直線で、統計的に有意な相関があった。つまり「被打率」と「奪三振/与四死球・比」には明らかな関連があると言うこと。したがって、一般的な投手について、被打率が低い投手というのは同時に「三振/四球」の値も高くなると言うことだろう。
端的に言うと、総合的にはこの図でみる左上に行くにつれて「野手に負担を強いらない好投手」ということになろうか。また同じ被打率なら上に行くほど、同じ「三振/四球・比」なら左に行くほど優れているとも言える。
実際に左上に位置する__「スミス、坂井、リッター、染谷」__の4投手は紛れもない世界レベルでの好投手であるし、その次の__「藤原、ローチ、ターニャ、山根」__もエース格であるので、この解析はほぼ実力を表していそうだ。日本の準エース格であった坂井であるが、全体的に見ても「三振/四球・比」が3番目に高いのは立派で、スミスと並ぶ好投手であると言える。その他では__山根__と__藤原__の頑張りが目立つ。被打率のやや高い__帰山__も「三振/四球・比」が坂井に続くほど高いのは立派。逆に__露久保__は三振比が低いが被打率も低く、投球術の高さが伺える。
そんな中一人目立つ(?)のが__江本__。代表投手でありながら今年の成績はむしろ日本リーグの投手ではかなり下の方で、__堤__や__松村__のような下位チームのエース(ゆえに強豪チームと常に対戦している。江本は織機とは対戦しない)にも成績で劣っているくらいだ。これはちょっと不甲斐ない。今年の復活を期待したい。
今回の解析では、「野手に負担をかけない」という点に絞ってみたが、実際には「打たせて取る好投手」というのも存在する(恐らくその典型的な投手が__山根__)。それぞれの投手がではどういう投球スタイルをしているのか、というのも興味がある。
次では各投手のタイプについての解析してみたいと思う。