【その2~投球スタイルを解析する】
今回は各投手の投球スタイル、投手としてのタイプを解析してみたいと思う。使用したデータは一つ前と同じ以下の5つ。
「防御率、被打率、奪三振率、与四死球率、投球数率」
これをチームでの解析と同じように「主成分分析」して、__つまり5つのデータを総合的に扱って__、「それぞれの投手がどのような特徴を持つか」、「どの投手とどの投手が近い投球スタイルをしているのか」を絞り出すことにした。
一応今回は、ちょっとややこしいですが解析結果を書いておきます(読む必要ないです)。
【1部リーグ27投手について、それぞれの投手がどのような特徴を有しているのかを主成分分析で解析した。用いたデータは投手の能力を表す数値として一般に使用される上記5つのデータである。相関行列を用いた主成分分析の結果、第2主成分までの累積寄与率が88%と高く、つまり5つのデータを用いた主成分分析による2次元配置で比較的よく投手全体の特徴を説明できると言える。
「防御率、被打率、与四死球率、奪三振率、投球数」の5つの統計値のうち、第1主成分の固有値の絶対値が大きい二つの項目を挙げると「被打率(0.505)」と「防御率(0.503)」であった。つまり第一主成分(横の軸)は、プラスになるほど「ヒットを打たれ、失点(自責点)も多い」という、投手としての基本的能力を表していると言える。
同じように第2主成分の固有値の絶対値の大きいもの3つを見ると「与四死球率(-0.665)」、「奪三振率(-0.494)」、「投球数(-0.450)」と、残りの3つのデータであった。つまり縦軸について、マイナス方向に行くにつれ「四死球および三振および球数」が多くなることを表している。このことは、グラフの縦軸は「三振も取るが荒れ球の投手(グラフの下方向)」や「三振は少ないが四死球も少ない打たせて取るタイプ(グラフの上方向)」というような、言わば個々の投手の投球スタイルの違いを表していると言える。以下に示す図は第1主成分得点、第2主成分得点について2次元展開したグラフである】
さてややこしい説明も済んだところで、とにかく結果を見てみよう。
「投球スタイルの異なる典型的な3つのグループ:主成分分析の結果(累積寄与率88%)」
【最初にグラフの読み方をまとめておきます】
グラフの右方向→:__「ヒットを打たれ、失点(自責点)も多い」→やや成績の劣る投手__
グラフの左方向←:__「ヒットを打たれず、失点(自責点)も少ない」→好投手__
グラフの上方向↑:__「三振は少ないが、四死球や球数も少ない」→→→打たせて取るタイプ__
グラフの下方向↓:__「三振も取るが同時に四死球や球数も多い」→→→荒れ球タイプ__
それぞれの投手を投球記録について解析して分布図にしたのがこの図である。近いところに位置する投手は似たような投球スタイルをしていると言って間違いない。
この図では、横軸に関しては真ん中くらいから左に位置する投手を好投手と呼ぶことが出来るだろう。その中の投手のタイプについて、野球でも見られるようにソフトボールでも典型的な三つの大きなグループを認めることが出来た。
以下に、それぞれの投手のデータも再掲載し説明しよう。
(グループA)打たせて取るタイプの投手
このグラフでは上に位置する投手ほど奪三振も四死球も投球数も少ない。つまりどんどんストライクを取り早いカウントから打たせて取るタイプの投手と言える。
このタイプの投手として、秋元(レオパレス)、帰山(佐川)、伊藤美(誘電)などがいるが、中でも最も典型的なのが「山根(レオパレス)」だ。この中で最も左に位置することから「昨シーズン最も成功した“打たせて取るタイプ”の投手」ということもできる。
実は山根について、「新人で躍動感があり投球フォームにも勢いがあり、力でグイグイ押して抑えるタイプだ」と勝手に印象づけられていた。恐らく多くの人がそうではないだろうか?しかし主成分分析の結果からは「典型的な打たせて取るタイプの投手」という結果になった。実際に個々のデータを見ても「与四死球率」「投球数率」が最も低くトップであるが、逆に「奪三振率」も27人中25位とかなり低かった。いかにも打たせて取る典型ではないか。それでいて被打率も12位と健闘している。これだけ見ると一体どこの10年選手かと思わせるような老練な投球を物語るデータだが、これが1年目の投手の記録だから恐れ入る。怪我持ちの山根にしては実に理にかなっている。
ただ2年目の今季、成長し力強さを増し三振も増やしてイメージチェンジするのか、今のままのスタイルで少ない球数でどんどん打たせてアウトにする技を磨くのか、どう成長するのかが本当に楽しみだ。
(グループC)荒れ球タイプの投手
三振も多く取るが四死球も多く、かつ球数も多い。絵に描いたような荒れ球タイプの投手だろう。去年のリーグではその典型がミッシェル・スミス。もともとは四死球もほとんど出さない素晴らしい投手だったが、昨年は序盤からコントロールに苦しむ場面が数多く見られた。今回の結果はその苦労の道筋をちゃんと表している。
この「荒れ球タイプ」のグループには他にリッター、ローチ、染谷といった外国人(外国生まれ)投手が含まれているのがまた面白い。呂やオークスもこれと近い場所に位置しており、つまりは日本リーグの外国人投手は「細かいコントロールは気にせず球数を投げ四死球を出しながらも三振を奪って抑えていく」ような荒れ球タイプの投手がほとんどなのだろう。ここまでみんなが理想通り(?)の外国人投手だとは、ちょっと分かり易すぎて笑ってしまう(笑)
ちなみにここに瀬川が入っているのもまた面白い。瀬川も外国人的な投手なのだ。
(グループB)どちらでもないバランスタイプの投手
上記2タイプのちょうど中間的場所に位置するグループで、グラフの上下中間に位置している投手は特に三振が「多い/少ない」とか、「四死球が多い」という偏った特徴はなく、どちらも同じくらいに安定しバランスの取れた力を発揮できるような投手のグループと言える(ただグラフの右側に行くと「三振は少ないが四死球は多い」というような両方とも悪い方でバランスが取れている選手も含まれるが)。
そのバランスの取れたタイプの典型が上野であろう。上野は三振も極端に多いが四死球も少なく、そのバランスが取れているので上下方向では真ん中に位置している。同時に、「防御率」と「被打率」が極端に低いので、一人だけ極端に左側に離れている。宮本も同じように優れた投手だが、やや三振が少なく且つ与四死球がかなり少ないので、少し図の上の方に偏って位置している。ただどちらにせよ、昨年のデータから言えばこれら両投手がバランスタイプの投手では最も成功した投手だろう(上野だけは成功しすぎてもはや比較の対象外だがw)。
その他にバランスタイプとしてこのグループに入る投手は、非常にクレバーで投球術に長けたベテラン投手が多い。坂井、露久保、藤原、ハーディングと聞いてすぐに思い浮かぶのは、それぞれがリーグを代表する投手である以上に、どこかいかにも「投手らしい投手」というイメージだ。恐らくソフトウエアの遠藤有子投手などの全盛期もこのタイプだったのではと想像できる。投手として完成された理想的な投手という感じか。
【まとめます】
上記の結果を簡単にまとめてみた。「○」はその中でも典型的好投手。
<打たせて取るタイプ>
○山根-秋元、帰山、伊藤(、森川)
<荒れ球タイプ>
○スミス-染谷、リッター、ローチ、瀬川(、呂、庄子)
<バランスタイプ>
○上野、○宮本-露久保、坂井、藤原、ハーディング(、その他)
【プロの目はどう見る???】
さて以上は僕が「2008年のデータを機械的に」解析した結果である。
長年対戦してきた選手はどう見るか?実はここからが本番!(じゃあ今までは何やってん!?笑)
上記で取り上げた15人について、ある日本リーグの10年選手に「選手の目から見てこの15人を「(1)打たせて取るタイプ、(2)荒れ球タイプ、(3)バランスあるタイプ」、の3つに分けてみて」とお願いしてみた。
以下がその結果である(「○」は解析結果と同じ」)。
<(1)打たせて取るタイプ>
山根○
秋元○
藤原→(解析結果は「バランス」)
伊藤美○
帰山○
<(2)荒れ球タイプ>
瀬川○
ローチ○
<(3)バランスタイプ>
露久保○
染谷→(解析結果は「荒れ球」)
ハーディング○
ミッシェル→(解析結果は「荒れ球」)
坂井○
リッター→(解析結果は「荒れ球」)
宮本○
上野○
※結果
15人中11人の投手が「プロ」の感覚と解析結果が一致した。これはまあまあでは?
結果が違った残りの4人が「藤原、染谷、ミッシェル、リッター」である。ミッシェルなどは2008年が特別荒れ球だっただけで、今までずっとバランスの取れたタイプであったのは明白。つまりこの相違は、プロの目(長年見てきた印象)から、今年やや違った投球をしたということを表しているのではないだろうか。
プロの選手の目から見た感覚はその投手の今までの何年もの総合的な感覚で正しいだろう。染谷にしろリッターにしろ、やや今年は荒れ球タイプの投球をしてしまった、というのが真相のようだ。藤原は逆にもともとは打たせて取るタイプだったのがより三振も取れる好投手に進化したのかもしれない。
その他の投手に関しても、今回の解析はあくまで昨年(2008年)のデータだけを解析した「昨年の投球スタイルは?」という結果である。若い投手が一夏で急激に成長する場面も何度も見てきたし、一冬越えたらもっと変身するだろう。今年どの投手がどういう投球スタイルに変化しているか、これはまた1年後の楽しみにしたい。